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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/03/30

3・11に寄せて(4)…聖光学院(福島)の祈り

この原稿が掲載される頃は、ちょうど3月21日に開幕した第84回選抜高等学校野球大会(阪神甲子園球場、日本高校野球連盟・毎日新聞社主催)の期 間中となります。東日本大震災で多大な影響を受けた東北地区からは今年は四校出場しており、石巻工(宮城)と花巻東(岩手)は初戦敗退でしたが、神宮大会 優勝の光星学院(青森)と、創立50周年の記念の年となった聖光学院(福島)は、共に初戦を突破しました。ドイツと日本との間には8時間の時差があり(3 月25日からはサマータイム導入のため時差が7時間へ短縮)、どんなに早起きしても第3試合の後半部分が少し見れるかどうかという時間帯であり、まだ一試 合も観戦できていないのが残念です。

それでも、聖光学院の勝利の報は、深く心に響くものがありました。というのも、昨年12月の仙台出張の際、私は同校を訪問しているからです。

前回掲載の仙石線に乗った話(→3・11に寄せて(3)…松島湾をめぐる哀愁)の翌日、今度は私は東北本線の列車に飛び乗っていました。仙台駅と伊達駅の間には16の駅があります。各駅停車で仙台から12駅先に行くと白石駅があり、ここはかつて『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)
の 宮城予選で「牛タンサンド」の大食いロケがあった所だった…などと、懐かしい思い出もよみがえってきます。その次の越河(こすごう)駅までが宮城県白石市 に相当し、さらに次の貝田駅から福島県伊達市に入り、さらに3駅進むとJR伊達駅に到着します。特に、貝田駅の次の藤田駅での乗降客の多さが印象的でし た。なお、伊達駅到着の直前に、列車の窓から聖光学院のグラウンドが見えるので、下車後の道は分かりやすく、徒歩5分程度で同校にスムーズに到着すること ができました。

こうサラリと書けば、単純かつ平穏な旅の移動という感じです。しかし、実際のこの移動は、かなりの緊迫感を伴うものでし た。それは、私がガイガーカウンターを携帯していたからに他なりません。無味、無臭、無色…人間の五感では分かりようのない空間の変化に対し、手元の測定 機器は容赦ありませんでした。越河駅手前から数値がグッと上がり、次の貝田駅でさらにググッと上がり、0.30μSv/hを越えると鳴る設定にしてあるガ イガーカウンターが伊達駅ではもう鳴りっぱなしです。本来、放射能飛散は県境を問わないものであってしかるべきですが、手元の測定機器によれば、宮城県と 福島県の県境にはどうも線量の差があるようで、それは付近の地形の変化や木々の分布などの要素に左右されたものではないかと、車窓の外を眺める限りでは思 われたのでした。

高校野球ファンとしてはもっと早く来たかったし、来ることをこれまで切望してやまなかった伊達駅でしたが、まさかこのよ うな状況下の訪問になろうとは…と、つくづく震災を恨みました。そんな伊達駅の改札の前で、私は感慨にふける余裕もなく、あまりにけたたましく鳴って傍迷 惑もいいところのガイガーカウンターを、サイレントモードに切り替えるという操作に、アタフタしていました。しかし、気が動転しているために、操作がうま くいきません。何せ、この機械を日本に持ち込んだ昨年夏以降、福島県に足を踏み入れこと自体が初めてで、測定値がそれまで(少なくとも地上で)測定した中 では最高値だったからです。

(伊達駅から学校に向かう途中の道。0.44μSv/h。野球部に限らず他の運動部のランニングコースでもある)

学校正門前。0.30μSv/h。敷地内は外の道路や緑地などに比べて線量がやや下がる)

そ こに、さらなる気の動転を誘ったのは、モタモタしている私の横を、聖光学院の野球部の部員さんたちがマスクもせずに走り抜けていったことでした。平常時で あればありふれた光景のはずが、見ているだけで心を裂かれる思いでした。しかし、放射能のホの字も口にしてはいけないような雰囲気が今の日本からは感じら れ、そのあまりの言及のなさがかえって不自然感を増幅しています。聖光学院野球部が登場する雑誌などの報道を見ても、あえてその話題を避けているようで す。確かに有るものを無かったことにされることで一番苦しい思いをするのは、どこの誰よりも、伊達市民の方々、ひいては福島県のさらなる高線量地域に住む 方々のはずなのに、との思いもよぎります。

しかし、聖光学院のグラウンドに到着してみると、現地はちょうど除染作業中でした。隣のラグ ビー場らしきグラウンドには重機が入り、あちこちで盛り土がなされていました。野球部グラウンドもまた、その頃はちょうど内野の土の入れ替え作業の真っ最 中で、汚染の低い黒土を他県から入れる作業が一日中進行しており、内外野をフルに使った練習は当面無理だというお話でした。この除染済みの敷地に近づく と、線量は駅前で測定された値の半分程度までグッと下がります。そこには、「除染したグラウンドは除染する前よりはベターなコンディションである」と思う ことでしか、この甲子園強豪校の野球部の日常は成り立たないという厳しい現実が見えるのです。

 

(ラグビー場入り口)

(野球部グラウンド内野部分。格段に線量は低下するものの、都内等の空間線量よりはまだ高い。それでも、この数字を「おお、低い!」と瞬間的に思ってしまうほどに、現地にいると次第に感覚が麻痺してくる)

ち なみに、聖光学院の野球部グラウンドの隣には、ステキなログハウス風のチャペルがあります。このチャペルの横にも同じくログハウス型の第二校舎があり、自 然との共生というテーマが学園独特の温かみをもたらしているかのようです。生徒さんのみなさんが(挨拶を強制ないしマニュアル化されている学校とは違う) 自然な笑顔で挨拶してくれるのも、学園生活の中にその秘訣がありそうです。

グ ラウンドを出て伊達駅に戻る途中に、再び聖光学院の第一校舎の前を通りました。他の野球強豪校だと華美な建築や高層ビルなども見かけるのですが、この聖光 学院は創立50周年という事実が指し示す如く、とてもシンプルかつ温かみのある建物でした。キリスト教ということと、クリスマスが近かったこともあり、夜 間にはこのようなライトアップがなされていたのがステキでした。それまでがあまりにテンパっていただけに、このライトアップには本当に心が洗われました。

半 日訪問しただけでしたが、本当に素敵な学校だと思いました。それだけに、このような事態を引き起こし、このような試練をこの学校に降り注いだものたちに対 し、やり場のない怒りがこみあげてきます。ただ、私にできることとして当面のところは、聖光学院が甲子園で健闘する姿を見守りつつ、学校の皆様とともに深 い祈りの中にありたいと思っています。

<参考サイト>
学校法人 聖光学院 聖光学院 高等学校
(ホームページ内にリアルタイム線量測定値という欄があります)

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