Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/03/16

3・11に寄せて(2)…JR仙台駅の運賃表にみる東日本大震災の爪痕

前回は、宮城県における道路の微妙な起伏や建造物のヒビといった震災被害について取り上げました。地震による建物の崩落、津波で流された住宅、道路の明瞭 な断裂・段差、土砂崩れ・液状化、大量のガレキ…そういったメジャーな被害は視覚的にも訴えるものが大きく、報道でも高頻度に取り上げられる反面、現地に 行かないとなかなか見えてこない比較的マイナーな被害は、マイナーな故にその修復がどうしても後回しになりがちだという現実があります。そして、そんな後 回しにされがちな被害が思わぬ心の傷になることもある、という例も目の当たりにしました。そういう観点からも、東北の真の復興までにはまだまだ本当に長い 道のりがかかるということを、昨年12月の仙台訪問で特に強く実感した、というお話でした。

なお、この仙台訪問においては、もう一つ、私の目を釘付けにしたものがありました。それは、JR仙台駅の近距離切符売り場の運賃表です。東日本大震災から 既に9ヶ月経過したこの運賃表の看板には、東京や大阪などの駅では決してみられることのない、深く悲しい爪痕がくっきり表現されていたのでした。

 その爪痕とは、上の写真において右上方と左上方に登場する「黒塗りに消された駅」と「バスによる代行運転区間」に他なりません。ちょっと見にくいため、それぞれの部分を拡大してみましょう。

まずは左上部分から見ていきます。石巻~女川(JR石巻線)と、松島海岸~矢本(JR仙石線)という、太平洋沿岸の二区間に線が引いてあり、これらは列車 代行バス運転区間となっています。さらに下に目をやると、今度は運賃部分を黒塗りされた駅が出てきます。「陸前横山」「陸前戸倉」「志津川」「清水浜」の 4駅へ行く運賃が消されています。これらがもし線路の被害のみで駅や道路がある程度無事なのであれば、前述の石巻線や仙石線のように列車代行バス運転が可 能、つまり運賃設定が可能なはずです。運賃が消されているということは、駅そのものが使えないという可能性が考えられます。つまり、これらの駅舎そのもの の被害が甚大であったり、駅へのアクセスが絶たれている事態です。ちなみに、一駅手前の柳津から清水浜までの区間が路線バス振替輸送区間となっています。 列車代行バスと路線バス振替輸送との違いは何でしょうか。普通に考えれば、前者は線路被害による鉄道輸送障害を文字通り代行するもの、つまり駅間を鉄道に 代えて自動車(=JRバス車両)を使用して結ぶ輸送(既存路線なし)、後者は駅使用不可に伴って元々の路線に平行ないし迂回する既存路線(自社・他社問わ ず)を使った輸送と考えられます。そして、後者は乗客の運賃負担なし(=JR負担)というのが、この看板から導かれる最も整合性のある説明ではないかと思 われます…などと延々と推理(妄想?)しながら、私はこの看板の前でかなり長いこと立ちつくしておりました。

今度は右上部分を見てみましょう。

 

こちらはうってかわって福島県、沿岸部の濃い青がJR常磐線です。地震と津波という震災被害の上に、さらに福島第一原子力発電所の大事故の影響が重くのし かかっている地区です。この時点では、亘理~原ノ町が列車代行バス運転区間となっていますが、この写真を撮った直後となる2011年12月21日より原ノ 町~相馬で列車運転が再開されています。先の推理に従えば、この列車代行バス運転区間は線路被害(駅は使用可能)と考えられます。しかし、さらに右端に目 を移すと、ここでも運賃の黒塗りが登場します。その駅名は「小高」「桃内」「浪江」「双葉」…まさに3月12日の「福島第一原子力発電所一号機爆発」の第 一報以降、マスコミでその名が連日大々的に報じられ、今でも頻繁に耳にする地名です。もっとも、この大震災発生より前の時点で、これらの駅名ないし地名を 知っていた人が日本全国に果たしてどれほどいたものでしょうか(ちなみに私が震災前から知っていたのは「双葉」だけ)。それがいまや全国区の知名度となろ うとは、何という皮肉でしょうか。地元の方々の悔しさは如何ばかりかと想像するに余りあります。

なお、ここでの”運賃黒塗り”は先程のケースとは事情が異なり、これらの駅が原発事故に伴う警戒区域内にあることによるというのは、言うまでもありませ ん。立ち入りが禁止ないし厳しく制限され、人も産業も退避を余儀なくされている警戒区域においては、”平行・迂回する既存路線”などあるはずもなく、当然 ながら振替輸送などあり得ません。仮に駅舎や道路が全くの無傷だったとしても、です。同じ”黒塗りの駅”でも、看板の右上と左上ではその意味合いがこれほ どまでに大きく異なるのです。なお、この看板ではJR常磐線が途中で切れているため、運賃黒塗りの駅は4駅しかみられませんが、実際は小高駅から双葉駅を 越えて木戸駅にいたるまで、実に9つもの駅が2012年3月11日現在も”黒塗り”状態にあります。この運転休止中の区間距離は実に全長50kmにも及ん でおり(常磐線広野駅~磐城太田駅間)、原発事故が人々から瞬時に奪ったふるさとの範囲のあまりの広さに、あらためて愕然としてしまいます。

では、この看板を見た私は、その後どのように行動したでしょうか…これについては来週以降に続きます。



バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483