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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/03/09

3・11に寄せて(1)…宮城で目にした震災の爪痕

この原稿が掲載される頃といえば、”あの3・11”の2日前にあたります。以前の記事に述べましたが、震災当日私は日本にいませんでした。早朝のパリでニュース番組に急遽割り込んできた日本の地震と津波の凄惨な衝撃映像から、もう一年の月日が経とうとしているとは、時の流れは早いようにも、短いようにも感じます。(→緊急寄稿…”SEISME DU JAPON”の衝撃→緊急寄稿(2)…さらに衝撃的だった”ERDBEBEN IN JAPAN”

そんな今、思い出すのは昨年12月中旬に仕事で訪問した仙台のことです。ほんの数日間の滞在でしたが、宮城県の被害の甚大さは目に見えて明らかでした。街中を見れば、クラックが入りすぎて強度が失われ、改修ないし建て替え予定となっている無人のビルやマンションが市内中心部にはかなり多く残っていました。灰色のシートに覆われて夜の暗がりの中で不気味に聳え立つビルの中には、「営業中」とデカデカと書かれた看板の陰で、地道に頑張って営業するコンビニの照明がうっすらと見えたりします。他方では、シートを被った無人の建物丸々一棟が営業中止中のホテルであったりするのですが、その真っ暗な建物はさながら幽霊屋敷のような佇まいで、これが街の寒さに輪をかけるのでありました。

 (シートが掛かった中で奮闘中のコンビニ。仙台市内)

さらに街を歩いていて気づいたのが、街中の至る所で道路が歪んでいたことでした。ぱっと見は平らで正常そうに思われる道路なのですが、よく見るとうっすらと起伏しています。宮城県内の各地で地震後の津波により水没した道路の中には、水による浮力のために表面の舗装が(剥がれはしないものの)浮いてしまうというケースがかなりあったようです。舗装の剥がれを伴わない起伏のみのある道路など、冠水したことのない道路ではまずあり得ないため、私は仙台に来た早々から、横断歩道を渡ったりするたびにやたらと足先を取られてズッコケていたのでした。よく見れば、周囲の仙台っ子たちは慣れているというか学習しているようで、コケることなくスイスイと歩いていきます。自分がやたらと道でつまずくという事が、そのまま宮城に残る震災の爪痕そのものであるということは、東京やドイツにいたままでは気づかなかったであろう貴重な体験でした。

 (亀裂だらけの道路、道沿いのバーが傾いている。塩釜市内)

 

(ガードレールが傾き舗装ブロックが転がる塩釜港)

(津波の水圧で石碑が傾いたままになっている。塩釜港)

ちなみに仙台滞在中に、とある中学校を訪問したのですが、そこにはたまたま、書道の授業で使用する水気取り用の古新聞紙がストックされておりました。しかもそれは、私が目にすることのなかった、震災直後の日本の新聞でした。思わず私は、まるで昨日か今朝の新聞を見るかのように、その紙面に食い入るように見入ってしまいました。

(2011年3月16日の朝日新聞朝刊。この時点での被害者総数:死亡4304人以上、安否不明1万6630人以上、避難約50万人、などの数字が並ぶ。写真からはカットしたが、この右側には亡くなられた方々の実名がズラリと掲載されており、被害の大きさを物語っている)

この新聞がリアルタイムで配られていた頃の人々の置かれた状況が、臨場感をもって迫ってくるように伝わります。そして、さらに9ヶ月を経てもなお残る傷跡があるということを、次の会話で知ることになります。

それは、この学校の保健室に数枚掛かっていた癒し系のほのぼのとした壁掛けについて、私が「ステキですね」と言及したときのことでした。先方から、意外な返答が返ってきたのです。

「これは単なる壁掛けじゃないんです。実は、後ろの壁には、かなり目立つヒビが入っているんです。一応ヒビは補填修復してもらったけど、見れば分かる状態だから、取りあえず目隠しを、ってことで壁掛けを買ってきたんです。ただでさえ気分悪くて保健室に来る生徒が、このヒビを見ただけでさらに色々と思い出して、ショックを受けてしまうものだから…」

 やさしい文言と温かみのある絵に彩られた壁掛けは、震災で傷ついた生徒を守る”心の防波堤”でもあったようです。そして何よりも、震災から9ヶ月経った時点でもなお、心の傷のトリガーに対する配慮が必要であるという現実には、深く考えさせられるものがありました。まもなく震災から1年を迎えようとしていますが、宮城に残る多種多様の爪痕の中でも特に、深く傷ついた”人の心”が癒えるその時が一日も早く来ることを、私は心より願っています。

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