Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/03/02

「大食い的風景」は無理?シンガポール事情(2)…全てがアラカルトの国

シンガポールで最も強い印象として残ったのは、公用語が四つあるという国際性です。公共の場はどこも英語・中国語・マレー語・タミール語の四カ国語表記となっており、これら四つがそのまま国の公用語でもあります。電車内でも四カ国語のアナウンスが流れておりましたし、乗客の話す言語もまるでバラバラでした。最近は日本でも空港や駅の表示が四カ国語表記(日・英・中・韓)となっているのが珍しくなくなりましたが、公用語は日本語のみです。シンガポールの街を行き交う人々を観察していると、全人口の3分の2を占める華人(中国系)がさすがに目立つものの、小柄でエキゾチックな顔立ちのマレー系の若者や、色黒で手足が長く頭にはターバンをしたインド系のビジネスマンなどの姿もあり、異人種の人々がビジネスにプライベートに語り合う光景は独特の活気を感じさせました。それでいて、以前訪れた中国でまるで英語が通じず苦労したのとは対照的に、シンガポールでは駅員や店の従業員といった人々も一般市民も例外なく誰もが英語を使いこなすことができて、街での不自由が全くありませんでした。さすがは他民族共存の国際都市国家、その教育レベルの高さにも感心しきりでありました。

これを一言で表すならば、シンガポールは”多様性の国”ということになるでしょうか。そして、この”多様性”とはすなわち、食の世界における”アラカルト”という語になるかと思います。まず、我々一行が最初の晩に行ったレストランで、メニューのどこを探しても、アルコールが無かったことが、この”多様性”の洗礼となる出来事でした。

「ビールが欲しいんですが…」
「ここには酒は一切置いていない!」

英国風パブのような内装の店だったのに、酒がないとは驚きました。ここで店員さんたちの顔をよく見たら、全員がインド系ではありませんか。最初は気が付きませんでしたが、さらにメニューを見たら、肉料理もありません。つまり、ここはヒンドゥー系ベジタリアンの店だったのです。

さらに、この調子で続きます。今度は、石焼ビビンバが食べたいな~、と思って韓国料理店に行った際のことです。

「石焼ビビンバ下さい」
「ビビンバの肉は何肉にしますか?」
「へっ?」

韓国料理でビビンバと来れば、牛肉に決まっているとばかり思っていました。実際、今まで韓国旅行の際にも日本の韓国料理店においても、「何肉にしますか」などと聞かれたことなどただの一度もありませんでした。質問の意味が俄かには理解できずにうろたえた私でしたが、シンガポールでは、韓国料理だろうが日本料理だろうが、とにかく肉料理の場合には必ずこのように聞かれるのです。

「Beef (牛)?Pork (豚)?Or, Chicken (鶏)?」

ここで私は、韓国でも日本でもなかなかありつく機会のないであろう「チキンビビンバ」を頼んでみたのですが、これが結構新発見の美味しさでした。

この話の背景にあるのは、シンガポールの宗教の多様性です。仏教(33%)・キリスト教(18%)・イスラム教(15%)・道教(11%)・ヒンドゥー教(5%)などがあり、それぞれの信心のあり方に応じて、牛食禁止だったり豚食禁止だったり、肉食全般禁止、菜食主義を採っていたり、魚や卵や乳製品がオッケーだったりと変化します。このため、「○○といえば△△肉!」といった感覚が通用しないのです。

この一連のシンガポールでの体験から翻って、私は日本の「大食い」文化に思いを馳せずにはいられませんでした。「宗教上の理由から私は○肉はNG」「△肉しか食べないのがうちの戒律」などと選手に個別に主張されては、大食い競技自体が到底成り立ちません。日本の「大食い」文化とは、”アラカルト”の対極、つまり個別性・多様性の否定とまで言ったら言い過ぎでしょうか。「出てきたものは文句言わずに食べる」「何でも食べれる雑食」といった概念を美徳とする世界は、シンガポールにおいては実現することは決してないでしょう。そして、「大食い」がアメリカにあってもヨーロッパに定着しない理由も、きっとその辺にあるのだろうと、私は妙に納得してシンガポールを後にしたのでありました。
バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483