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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/02/03

日常の中の大食い的風景(5)…山口百恵、ザ・ベストテン、そして大食い?!

本年のお正月休みにインターネットをのぞいていたら、このような中古DVDを偶然見かけました。お値段は(中古品でしたがそれでも)かなり高く、躊躇したのですが、正月ということでフンパツして買ってしまいました:

Amazon.co.jp:ザ・ベストテン 山口百恵 完全保存版 DVD BOX:山口百恵、黒柳徹子、久米宏

これは、1978年から1989年まで続き高視聴率を誇った歌番組『ザ・ベストテン』(TBS)において、当時トップスターとして君臨し、人気絶頂のまま1980年に結婚引退した歌手・山口百恵さんの全12曲・全122回にわたるランクインを、歌のみならずその前のミラーゲート登場シーンやトークシーンも含めて収録したという、なかなか貴重かつ興味深い5枚組DVDです。1970年代といえば、実は私がちょうど日本にいなかった時期と重なります。花の中三トリオ(山口百恵・桜田淳子・森昌子)やキャンディーズ、そしてピンクレディーといった、当時の一世を風靡したアーチストを全く知らずに育った私にとって、ベストテン番組創成期でもある70年代後半の日本の音楽シーンを垣間見るのみならず、私が不在だった当時の日本の世相も見ることができるであろうこのDVDに、一種のタイムスリップを期待しつつ、鑑賞をはじめたのでした。

ちなみにこのDVD、アマゾンの紹介文にはこう書いてあります:

”珠玉の名曲に酔いしれながら、誰もがあの頃の懐かしい思い出に戻ることができる究極のBOX”

しかし、私の場合は全く様相が異なることにすぐ気づきます。”懐かしい思い出に戻る”ではなく、出てくる全てのシーンが、まるで異国の映画のように、新発見と新鮮な驚きの連続なのです。その秘訣は、番組が毎週生中継で放送されていたことにもあるかと思います。港区赤坂(TBS)のGスタジオのみならず日本各地から生中継される百恵さんの姿の背後に、1970年代後半の日本の木曜夜9時からの一時間がそのまま切り取られて保存されているのです。そもそも、今の21世紀の日本のエンターテインメントからは、「生中継」という放送スタイル自体がほとんど一掃されてしまいました。過去のテレビ番組を当時のまま、ありのまま(モザイクや音声加工の無い状態)で再放送するということも、著作権や肖像権などの権利の諸問題が複雑化したため、今後はおそらく不可能と断言できるでしょう。その点でこのDVDは、限りなくこの”諸問題”がクリアされている最後の作品と言っても良いかもしれません。久米宏さんや黒柳徹子さんという名司会コンビのエスプリの利いたトーク、他の歌手とのプライベート感たっぷりのトーク、中継で登場する街の風景や人々の生き生きとした表情など、余すところ無くそのまま収録されているところに、大いなる価値があります。そして、高度経済成長から所得倍増計画を経て日本列島改造論という流れで、新興国から先進国へとまさに変遷を続けている真っ最中にある一つの国家の姿が、そこにはドキュメンタリー映画のように描き出されているのです。

そんな「ザ・ベストテン 山口百恵 完全保存版」ですが、私がさらに注目したのは、そのトーク部分の一部に”大食いワールド”が思いがけず展開されていたことでした。1978年3月23日放送分のザ・ベストテンにおいて、当時超多忙を極めていたトップアイドル・山口百恵さんに、司会者両名がそのスタミナの秘訣を聞いたというエピソードです。以下に該当部分を書き出します。(なお、久:久米宏さん、黒:黒柳徹子さん。山口百恵さん本人は歌のスタンバイへ)

久 「百恵ちゃん忙しいんですれけどもね、スタミナ源ていうのは、『一日四食、朝風呂、睡眠時間四時間』、コレだそうです!」
(中略)
久 「黒柳さんもお忙しいと思いますけどねー。どうですか、スタミナ源は」
黒 「そうですね、一日五食
久 「うわ~、胃拡張ですね、そりゃあ」
黒 「朝晩お風呂に入るんですよ」
久 「低血圧と違いますか」
黒 「そして、10時間は寝てますかね」
久 「眠り病です!」

どうでしょうか、「一日四食」「一日五食」「胃拡張」…大食いを連想させるキーワードが揃い踏みです。それにしても山口百恵さん、忙しすぎです。DVD鑑賞を進めていくほどに、彼女が何度も体調を崩しては番組を欠席したことがわかります。そして、その度に久米宏さんが医師からの診断書を早口で読み上げるシーンが続くのですが、もうそれだけで何だかモーレツな国の空気感が漂ってきます。彼女の早すぎる引退も、そのあたりが一因かもしれないと勝手に考えてしまいました。

さらに踏み込んだ解釈をするなら、大国化の途上にあった当時の日本において、かくもモーレツな日々のストレスを発散する国民の精神安定剤的な存在として、「食べる」という行為が日本の根底を支え、ひいてはそこからカルチャーとして日本のバラエティ番組の一大コンテンツとなる「テレビチャンピオン」(TV東京)をはじめとする大食い番組の台頭を迎えたのではないか、そしてこうなる萌芽がこの一連の会話に見えているのではないか、そんな構図も浮かび上がってきます。

2005年番組開始の「元祖!大食い王決定戦」(TV東京)もまた、おそらくこの流れの延長線上にあったのでしょう。地方予選や新人発掘戦の名を冠した大食い大会に帯同すればするほど、豪快な食べっぷりを披露するごくフツーのシロート選手が日本全国に散らばっているというこの「大食いのすそ野の広さ」に驚かされ、人種的な特性や医学的な体質など色々な合理的な説明を試みたものの、結局はなにか日本ならではの病理があるのではないかと漠然と考えていましたが、今回のこのベストテンDVDにも垣間見られる「胃拡張」「睡眠不足」の慢性化したストレスフルな社会構造もまた、見逃せない要因の一つであるのかもしれません。その後、ゆとり教育導入やバブル崩壊のあたりからこの傾向に一部は見直しの手が入ったり、他方ではさらに拍車がかかったりしつつ、今に至るのでしょう。そして日本人は今後も、「食べる」ということに、”生命維持”という本来の目的以上の”精神的救済”を求め続けることになるのでしょう。

それにしても、このDVDにおける久米宏さんと黒柳徹子さんのお二人、台本の存在も感じさせるものの、ボケと突っ込みという役割分担にとどまらないアドリブの部分が秀逸で、ウィットとユーモア満載、かつ、バランス感覚と人間愛に溢れているのが素敵です。しかも、これらが全て生放送であったということに、感心を通り越して感動せずにはいられません。これが果たして”偶然の奇跡”なのか、それともストレスフル社会なればこそ成し得た”時代の必然”だったのかはわかりません。いずれにしても、このような力量の司会者が二人揃ったからこそアーチストの魅力が引き出されるこの「ザ・ベストテン」、奇跡の塊のような番組だったとも言えるでしょう。2月末には今度は中森明菜さんのベストテンDVD-BOXが発売になるようです。番組をリアルタイムで見たことのない若い世代にこそ是非見ていただきたいと思いますし、今後も同様なDVDがどんどん発売されること(そして可能ならもう少し価格が下がり若い人の目に触れやすくなること)を願っています。

Amazon.co.jp:ザ・ベストテン 中森明菜 プレミアム・ボックス

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