Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/11/18

ドイツ流「GO!GO!省エネ」(4)…ドラム式洗濯機事件にみるドイツのエコ事情

2005年に私がドイツで最初に住んだ家は、勤務先の研究所から自転車で15分ほどのところにある集合住宅でした。このアパートメントは、世界各国から渡独した客員研究員が自分の住居をみつけるまでの期間、暫定的に入居する一種のゲストハウスで、部屋には書棚やベッドなどの家具や食器類が備え付けられていました。地下一階にはコインランドリーの如く共用の洗濯機が数台並び、空いている時は適宜使用することができました。

先週のコラムからも御察しの通り、このゲストハウスでも洗濯機は言わずもがなのドラム式(いわゆる前面扉・水平回転軸の洗濯機:ドイツでは「フロントラーダー」とも呼ぶ)でした。ドイツ製のドラム式洗濯機は欧州各国の中でも特に評価が高く、私もその威力を試す日を心待ちにしながら生活しつつ、洗濯物をためていきました。そして、ある程度たまった洗濯物をカゴに入れ、そのカゴを抱えながらウキウキと地下の洗濯室への階段を下り、ドラム式洗濯機を早速試してみました。日本の洗濯物と比較して、ドイツでは洗い上がりの洗濯物はとてもいい香りがします。それらを再びカゴに入れて階段を上っていく足取りも軽く、洗濯物を自室で鼻歌交じりに干すと、素敵な香りが部屋中に広がる…そんなドイツ生活の始まりでした。

それが、入居して一ヶ月後頃だったでしょうか、ドイツの洗濯機に対するイメージを180度覆す大事件が勃発しました。いつもと同じように階段を下り、洗濯機をセットして自室に戻り、終了時間を見計らって再び階段を下りていくと、洗濯機の様子がいつもと違います。洗濯はとっくに終了しているのに、洗濯機の前面のドアが開かないのです。ドアが開かないと、中の洗濯物が取り出せません。ちなみにこの洗濯機、扉を開けるためのボタンがあるのですが、このボタンを押す以外に扉を開ける手段がなく、しかもこのボタンを何度押してもドアは開きませんでした。

そこで、「一旦電源プラグを引っこ抜いてから再度差し込めば、ドアが開くのでは?」などとひらめいた私は、あまりに”シロート”でした。実際にプラグを電源に挿し直したその瞬間、事もあろうにこの洗濯機、洗濯工程を最初からやり直し始めたのです。閉じられた扉の向こうで、私の洗濯物は二巡目に突入しました。ザーッという注水音とともに洗濯が再開するという、日本の洗濯機ではまず有り得ない予想外の展開に呆然自失の私でしたが、次の瞬間、今度は目をひんむくことになります。この二巡目では洗剤を一切入れていないにもかかわらず、扉の奥で私の洗濯物がもの凄い泡立ちを見せたのです!

「ドイツの洗濯物の洗い上がりのいい香りって、要するにこういうことだったのね…」

これはかなりの量の残留洗剤があると考える以外にない…そう考えた私は、さらに確信犯的に再度電源の抜き差しを行い、三巡目をあえて回してみました。すると、二巡目に比べたら幾分か減るものの、洗濯物はまだまだ泡立ちを見せるのでした。

ここで、先週の記事を思い出してみましょう。欧州で広く普及しているフロントラーダー型ドラム式洗濯機の最大の利点は、「水の使用量がほぼ半減」という節水性にありました(→ドイツ流「GO!GO!省エネ」(3)…欧州式洗濯機はドラム式が当たり前!)。しかし、この「フロントドアが開かない!事件」において分かったことは、第一に「節水を徹底すると洗濯物に相当量の洗剤が残るのは必然」という普遍的法則であり、第二に「残留洗剤による肌や健康のトラブル等よりも節水による省エネの方が優先される」とでも解釈せざるをえないドイツならではの徹底した環境理論でした。後者は特に、以前のコラム(→ドイツ流「GO!GO!省エネ」はひたすら節水(1)…「すすぎ水」の衝撃体験)でも述べた「皿に洗剤や洗い残しが残留することよりも節水が優先する」という一例としての「すすぎ水(Spülwasser)」の概念とも一致するだけに、これはドイツ社会の中に確信的に組み込まれた生活様式とみるべきなのかもしれません。

なお、先週のコラムでは、フロントラーダー型ドラム式洗濯機の欠点の一つとして”前面扉だと上面扉に比べて負荷がかかりやすく壊れやすい”という記述もありました。”前面扉”は強い水圧を受ける構造のため、頑丈に作られています。そして、洗濯中に扉が開くと中の水が漏れてしまうため、洗濯が完全に終了して初めて扉が開くようプログラムされています。この渡独早々の「ドアが開かない!」ドラム式洗濯機事件、後から来た修理業者さんによると真相は洗濯機のプログラム不良だったようです。長らく閉じ込められていた私の洗濯物も、業者さんによるフロントドア交換作業の際にようやく脱出を果たしました。三巡も洗濯された挙句にすっかりヨレヨレになってしまった私の洗濯物には申し訳ないことをしましたが、このトラブルのお蔭で「環境大国」「エコ先進国」の素顔の一端を垣間見ることができたのは、いい経験になったと思っています。
バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486