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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/10/28

ドイツ流「GO!GO!省エネ」はひたすら節水(1)…「すすぎ水」の衝撃体験

本年初夏に訪れた立正大学大崎校舎(東京都品川区)では、その名も「GO!GO!省エネ」と題し、在校生に節電と省エネへの協力を呼びかけていました。その具体的項目を見ると、日本における省エネには、その気合の入り方において、「空調>照明>水」という暗黙の優先順位があるのではないかと類推される…というのが先週までのお話でした。(わたしたちにできること(5)…立正大学の取り組み:「GO!GO!省エネ」

それが、ドイツに来ると様子が一変します。周囲のドイツ人の日常生活を観察していると、「省エネ」「節電」よりはむしろ「節水」「水資源保護」という概念の方が色濃く、その節水信仰ぶりはほとんど宗教のようです。もちろん、節電意識が低いワケではないのですが、どちらかというと「エコとは水をケチること」という発想の方が圧倒的に優勢で、事あるごとに生活の端々に顔をもたげてきます。そして、日本人にはとても理解できないような奇妙キテレツな”風習”に出くわすことが多々あります。

その最たるものの一つが、今週ご紹介する「すすぎ水」(Spülwasser )です。私がドイツの研究所に赴任してすぐ、ラボの休憩室でバイキング形式のようにみんなでランチをとることになった際のことです。キッチンコーナーにある皿やナイフ・フォーク、コップなどが総動員となり、みんなはパスタやらジャーマンソーセージやら取り分けて、それは楽しいランチとなりました。私も大食い番組で(多少ですが)鍛えた胃袋を存分に披露(?!)しつつ、たらふく満たしたおなかをさすりながら、一応は新入りの身でもあるため、率先して皿洗いをしようか…などと殊勝なことを考えたその瞬間でした。

日本でやっていたように、皿やコップに流水をザーっとかけ始めたところで、四方八方から猛烈なクレームが飛んできたのです。

「ああっ、何やってんのぉ?!水を流しっぱなしにしちゃダメでしょ~!」
「彼女は日本から来たばかりだから…知らないのも無理ないよ」
「あのね、ドイツではこうやるのよ。覚えてね」

そういって、所員総動員で実演販売ならぬ実演皿洗いが始まりました。まず、シンクの底にフタをして、水をいっぱいに貯めます。そこに、大さじ1~2杯程度の台所用洗剤を適当に垂らし、混ぜるとかすかに泡立つ感じにします。この水のことを彼らはSpülwasserと呼んでいるわけですが、日本で言うなら「洗剤水の入った洗い桶」とでもなりましょうか。ここでは便宜上、ドイツ語の単語をそのまま直訳し(spülen=すすぐ、Wasser=水)、「すすぎ水」として話を進めます。

この「すすぎ水」に、彼らは使用済みの食器をどんどん入れていきます。何せ食べたのがパスタやらソーセージといったコッテリ系ばかりなので、皿は赤茶褐色の油っぽい付着が目立ち、数枚入れただけで「すすぎ水」は徐々に混濁し、追加で入れれば入れるほどその泡立ちを失っていきました。その「すすぎ水」の中に沈めた皿を、同僚たちは今度は水中でスポンジを用いてこすり、大まかな付着物を落とします。そして、乾いたふきんを持った同僚が、その薄汚れた水から引き上げた皿やコップをすすぐことなく、上からふきんで乾拭きしただけで、何とそのまま食器戸棚に戻していくではありませんか。当然ながら、皿を拭けば拭くほど彼らが使用するふきんは汚れて油っぽく湿っていくのですが、彼らは全く気に止める様子もなく、「結構キレイになったね~」などとヌル~い口調で談笑しています。私は思わず、物申さずにはいられませんでした。

カタ  「いやいや、『キレイになったね~』じゃないでしょう?!これって、もう一回きれいな水ですすがなきゃ、汚いって!」
同僚A 「もう一回すすいだら、その分の水がムダになる。環境に悪い(キッパリ)」
カタ  「エーーーーッ、だってこんなんじゃ、汚れは絶対落ちてないし、洗剤も絶対残ってるって!」
同僚B 「大丈夫、ちゃんとふきんで拭き取ってるから、皿には何も残っていない(ここでもキッパリ)」
カタ  「そうか、全部拭き取ってるから大丈夫か…って、んなワケないやん!(←ここでノリツッコミの手の動作が入る)…コレじゃ、他の皿の汚れと洗剤をそのまま別の皿に拭き付けてるようなもんでしょ?このふきんが、汚れと洗剤を皿の表面から完全分離できる魔法のふきんでもない限り」
同僚A 「(一瞬ひるむ)た、確かに拭き取りには限界が…」
カタ  「それに、この皿の表面に残った洗剤を、次に使う人が食べちゃうんだよ。水を節約するのが環境に優しいからといって、洗剤を食べるなんて人体に優しくないと思わない?」
同僚全員 「それなら大丈夫。ちゃんと、食べても人体に害のないことがテストされているものしか、洗剤として売られていないはずだから!(笑顔でキッパリ)」
カタ  「(アカン…気持ち悪くなってきた…)」

この会話の途中に気分が悪くなるという感覚は、日本人でないと理解できないかもしれません。 彼らが「すすぎ水」で洗った食器をそのまま棚に戻す光景は、それまで自分が無邪気にパスタを食べていた皿もまた、数日前の誰かの食べ残しの油汚れと、人体に蓄積すればどんな害が発生するかわからない界面活性剤を塗りたくった代物であったという可能性を、雄弁に物語っていたということです。環境先進国として名高いドイツといえども、人体に優しくない合成洗剤も当然ながら普通に売っています。この一件以降、備え付けの食器は一切使わなくなった私ですが、果たしてこれは「世界に冠たるキレイ好きすぎる民族」とされる日本人ゆえの過剰反応でしょうか?他の国からの留学生が比較的無頓着なところを見ると、なんだか不安になってきます。それこそ食べて害があるのかが「直ちには」分からないような洗剤を食べてまでも、ドイツは固い信念をもって「節水」に邁進している…この「すすぎ水」の洗礼は、私にとってはドイツに渡って早々に食らった強烈な先制パンチでありました。

こんな調子で始まったドイツ生活、他にも何かと「仁義無き節水」の場面に直面することになるのですが、それについては来週に続きます。

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