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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/09/16

世界のデジアナ変換(3)…どこが地デジ先進国?ドイツと日本のテレビ受信方式の相違

先週の内容は、フランスでは地上アナログテレビ放送終了が2011年11月30日に決定しているものの、ケーブルテレビ会社による”暫定的な”デジアナ変換が期限を区切ることなく継続されるという話でした。フランスのホテルで遭遇したアナログ放送終了の告知テロップも(→世界のデジアナ変換(1)…フランスのホテルにて)、決してしつこく頻繁なものではなく、本年7月の日本のような国を挙げた「地デジ移行推進」という一大キャンペーンとは随分異なる印象でした。

ただ、テロップが一応流れるフランスはまだ良い方かもしれません。ドイツではそんなテロップすら一切お目にかかれません。もっとも、これにはいささか長い説明を要します。そもそもドイツにおいては形式上、フランスよりも一歩先に”地デジ”移行を既に完了していることになっているのです。

まず、Wikipediaの「地上デジタルテレビ放送」の頁をみてみましょう。ドイツは2008年11月にデジタル移行を完了、フランスは2011年11月29日に終了予定とあります(注1)。さらに総務省のホームページ内にある「デジタル放送推進のための行動計画(第9次)」(2008年12月1日)というドキュメントの中に、デジタル放送を推進するメリットとして「国際競争力の強化」を挙げながら、次のように説明しています(注2):

「なお、既に、オランダ(2006年終了)、スウェーデン(2007年終了)、フィンランド(2007年終了)、スイス(2008年終了)、ドイツ(2008年終了)などでは、アナログテレビ放送が終了しており、アメリカ(2009年終了予定)、フランス(2011年終了予定)、イギリス(2012年終了)、韓国(2012年終了)などでも、アナログ放送終了に向けて取り組んでいるところである」

この記述は決してウソは言っていないのですが、非常にミスリーディングな文章と言わざるを得ません。そのまま読めば、「ドイツを含め欧州は地デジ先進国!」「諸外国に比べて日本はずいぶん遅れてるんだなあ…」などと思っても無理はありません。しかし、実際にドイツに住んでいる私からみたら、周囲には我が家も含め未だにアナログブラウン管テレビで見ている人が結構多いのです。私の周囲にたまたま質素倹約を旨とする典型的ドイツ人が多いだけかもしれませんが、彼らは日本の方がよっぽど最新のデジタル機器に囲まれたデジタル先進国だと思っています。これは一体どういうことなのでしょうか?

そのカラクリは、ドイツと日本におけるテレビ放送の受信方法の差にあります。日本では、テレビ普及の歴史的経緯から、元々「テレビとは屋根にアンテナを立てて見るもの」というイメージが強く、いわゆる”地上波”のシェアが高いのが特徴と言われています。地上波をアンテナで直接受信する世帯の比率を調べるため、先述の2008年の「デジタル放送推進のための行動計画(第9次)」の中の「受信形態別の周知・働きかけの方法と費用負担のイメージ」(資料2)という表を見てみました。この表では、日本におけるテレビ放送受信形態は

戸建て住宅(直接受信)  2000万世帯程度
集合住宅共聴施設     770万世帯
受信障害対策共聴施設  650万世帯
辺地共聴施設        140万世帯
ケーブルテレビ       2194万世帯


の五つに分かれています。まず、戸建(直接受信)の数字が推計値であり(「程度」が末尾についていることがその表れ)、これらの数字を全て合計すると5754万世帯「程度」となり、平成17年度国勢調査(2005年)による世帯数4906万世帯を大きく上回ってしまいます。実は私は二年ほど前、総務省に「アンテナ受信vsケーブル受信の実数比較」について問い合わせたことがあるのですが、このときは結局「実は正確なデータがない。おそらくケーブルがだいたい半分弱、残りがアンテナ受信の地上波」という返答で終わりました。いずれにしても、2008年時点の日本では地上波をアンテナで受信するケースが全世帯の半数は確実におり、彼らにとっての地デジ対応とは、その2000万世帯以上にものぼる日本全国津々浦々のお茶の間に多大なる精神的および金銭的負担を迫るアクションであったことが想像できます。

さらに調べると、近年ケーブル受信世帯数が大幅に伸びているようです。日本ケーブルテレビ連盟の資料によると、ケーブルテレビ会社の加入者が2010年3月末の時点で3264万世帯(全国総世帯の63%)に及んでいるそうです(注4)。アンテナ受信者からのみならず、受信障害対策共聴などの電波障害施設からのケーブル加入も大幅増加の要因と考えられ、暫定的デジアナ変換の周知がさらに進めば、今後まだまだシェアを伸ばす可能性があるでしょう。

さて、日本では断片的な情報から類推せざるをえなかったテレビ放送受信形態ですが、ドイツには(珍しく?)極めて正確な統計が存在します。ドイツにおける地上波(アンテナ直接受信)のデジタル完全移行直前とされる2008年7月のデータと、2011年7月のデータを以下に並べます。
                            2008年7月    2011年7月
ケーブル受信による地上波再送信         52.5%        50.2%
衛星放送受信による地上波再送信         42.5%        44.7%
地上波のアンテナ直接受信             11.1%        11.8%
インターネットテレビ(デジタルのみ)          0.3%          3.0%

これを見れば、なぜドイツではいまだにアナログテレビが普通に見られるのかが分かります。それは、日本で主流の「アンテナを立てた地上波」を見ている人が、ドイツには元々一割程度しかいなかったからなのです。完全にアナログを終了したのはアンテナ直接受信の地上波のみであり、ケーブルテレビと衛星放送はデジアナ変換をずっと行い続けて今に至っております。なお、ドイツのケーブルテレビはフランス同様、アナログ終了期日を設定しておらず(注5)、実質的に無期限デジアナ変換の状態が続きそうな気配です。一方、衛星放送の方は2012年4月30日までにアナログ放送を終了することが決まっています(注6)。実は私がドイツで見ているテレビは衛星受信なので、2012年までにデジタル対応かケーブル加入かを決断せねばならず、頭が痛いです。

なお、日本の衛星放送は地上波と異なる番組を放送しており、ドイツで行われているような地上波の再送信は原則として行われていません。ただし難視聴地域問題の対策として、限られた世帯に条件付で認められています(注7)。これについてはまた別の機会に考えてみたいと思います。

<参考サイト>
(注1) Wikipedia日本語版 - 地上デジタルテレビ放送

(注2) デジタル放送推進のための行動計画(第9次) - 地上デジタル推進全国会議2008年12月1日

(注3) デジタル放送推進のための行動計画(第9次)資料編(資料2)- 受信形態別の周知・働きかけの方法と費用負担のイメージ

(注4) 社団法人 日本ケーブルテレビ連盟 平成22年度事業報告書(PDFファイル)

(注5) ANGA Verband deutscher Kabelnetzvertreiber e.V.(ドイツ語)

(注6) Information über Abschaltung des analogen Satellitensignals - klar digital -
(ドイツの衛星アナログ放送のデジタルへの完全移行は2012年4月30日の予定)

(注7)Wikipedia - 地デジ難視対策衛星放送

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