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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/08/19

地デジ狂想曲の怪!(3)…テレビ俳優が生放送で「脱テレビ宣言」しても許される国

2011年3月11日の東日本大震災は、はるか離れた東京のわが自宅にも思わぬ被害をもたらしました。我が家唯一の地デジ受像機であるリビングの大型液晶テレビがまさかの液晶割れで、当時全国に29万世帯と呼ばれた「地デジ未対応世帯」に晴れて仲間入りです。高額商品破損のショックがあまりに強すぎたためか、完全デジタル移行まであと4ヶ月半というのに何の対策手段も講じず日々が過ぎ、「地デジ移行まであと○○日!」の数字ばかりが着々と減っていきました。

このままだと、7月24日以降にテレビが見れなくなる!さて、どうしよう?多少は焦りもあった私ですが、6月に出張で訪れたイタリアのフィレンツェにて、この問いに対するとんでもなく衝撃的な答えに出くわしてしまうのでした。

朝、身支度をしながらテレビのチャンネルを色々とザッピングしていました。さすがはホテルのテレビだけのことはあり、イタリアのチャンネルが全て入るのは当然のこと、ビジネス客や観光客を意識した英語のBBCやCNN、他のスペイン語・ドイツ語・フランス語の各国営放送にアラビア語のアルジャジーラまで入ります。なぜかタイ語のチャンネルがあったのに、日本語や中国語のチャンネルが入っていなかったのは、ちょっと不思議でもありました。

ふとリモコンを止めると、そこにはドイツZDFの朝のワイドショーが流れていました。当コラムでも以前取り上げたことのある『Volle Kanne』という番組です。日替わりのゲストが司会者と同じ食卓で朝食を共にしながら、ニュースやVTR紹介の合間に雑談を展開していくという、生放送の情報番組です。(ドイツのテレビが明かした正真正銘の「食べても太らない方法」…運動編)

この日のゲストは、テレビドラマなどで活躍の有名俳優、ヘニング・バウムさんでした。有名な刑事ドラマにおけるシブ~い刑事役でも知られるバウムさんですが、以前テレビに出演した際にカメラの前でタバコを吸ったら、直後から視聴者のクレームが来たそうです。その時のエピソードについて、彼はこんな説明をしました。

バウム 「ある番組でオレがオンエア中にタバコ吸ったら、間髪入れずに視聴者からクレームがきたんだ。『テレビに出る人間は模範となるような人でなければいけない。だから、テレビカメラの前でタバコを吸うなんて今後道断だ!子供の教育上良くないからすぐやめろ』ってね!」
司会者 「へーっ!それで君はどう答えたんだ?」
バウム 「こう言ってやったさ:『それを言うなら、子供の教育上は、テレビを見せること自体が害悪じゃねえか!オレのことをわざわざ電話かけてきてとやかく言う暇があったら、家にあるテレビを今すぐ全部捨てたらどうだい?』ってね!(笑)」
司会者 「実はうちの親もそういう考えで、ボクが子供の頃には家にテレビがなかったんだ。ボクらの世代は、親がそういう考えって家が結構多かったよね」
バウム 「うちはいまだにそうさ!オレ自身がテレビで稼いでるのにね(爆笑)!」
司会者 「アハハ!それもそうだ」
バウム 「でも、これだけは言っておきたい。そもそも、テレビに映る物事が模範だったり正義であるとかあるべきだとか、思う方がどうかしている。テレビはそういうものじゃない。同時に、テレビに出る人間が完璧でなければならないなんてのもナンセンスだ」
司会者 「完璧な人間なんていないし、それを求めたらテレビに出れる人がいなくなっちゃうね!」

細かい文言はうろ覚えですが、トークの趣旨はこんな感じで進行していきました。しかし、笑いの絶えないユルい口調とは裏腹の毒気の強いこの会話を聞いて、テレビの威力のとっても強い極東の島国から来たワタクシは、そのあまりの衝撃にヨロヨロしてしまうのでした。特に、最後のバウム氏のセリフは、そのまま日本の大食い番組のありのままの姿を端的に言い表しているのみならず、大食い界と一般国民との間の宿命的といってもよいほどの認識のギャップについても鋭くえぐり出した論評のようにも聞こえてしまいそうで、これまた私の脳天を根幹から揺さぶる衝撃発言でした。

しかし、この一連の発言がドイツでは特に問題視された形跡もなく、この俳優も司会者もいまだにエンターテインメントの第一線で相も変わらず活躍中です。

それにしても、何が衝撃だったのか。第一に、テレビに出ている者が「テレビは害悪」などとアッケラカ~ンと生放送で公言しても普通に許されるZDFという放送局、ひいてはドイツという国のおおらかさ。第二に、「テレビは教育上よくない」などのテレビに対する否定的な発言に対して、司会者が特に動揺したり発言を制止する素振りもなく、それどころか間髪入れずに「うちにもテレビ無かった」などとすんなり同調してきた点。第三に、「視聴者のクレームに対して即座に反撃」という、日本ではとても許されそうにない話が、ドイツでは干される原因になるどころか、正論を述べる勇者としての敬意を集める、というような話に落ち着くこと…といったところでしょうか。最近の日本では、政治系衝撃発言が原因で仕事を干される俳優さんの話題が相次いでいると聞きます。それだけに、日本では「権力」としての側面のある「テレビ」が、ドイツでは必ずしもそういう存在ではないということ、それでもドイツという国がちゃんと成り立っているということに、「お国柄」という以上の根源的な相違を感じるのです。

「家にあるテレビは全部捨てたらどうか?」と言い放ったドイツ人俳優の提言は、我が家の遅々として進まない地デジ化に対する極端な珍解答の一つとして、それでもかなりディープに脳裏に刻まれました。そもそも、新聞宅配制度の充実が世界一で、インターネットの普及率も世界トップクラスの日本において、そんなに頑張ってテレビ視聴環境を整えることにどんな意味があるのだろうか?テレビを視るよりもラジオを聞くことの方が生活に浸透しているドイツの事情も考えると、災害時のことも考えてラジオにシフトするという手はどうか?そんな考えも浮かんでは消えます。結果として我が家が選択したのは、「とりあえず、その日になるまで何もしない」という答えでした。

さて、その日がやってきました。そのことについては次回の原稿に続きます。

 

(Volle Kanne 2011年6月8日放送。左がヘニング・バウム氏、右が司会のインゴ・ノムセン氏。ちょうど本稿の会話が展開されている部分のテレビ画面を撮影)

<参考サイト>
Wikipedia – Henning Baum

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