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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/07/22

震災直後の甲子園から見える世界(6)…大食い版「ナイター(照明点灯試合)」の意味

 一、試合間インターバルを短縮しナイター試合(照明点灯試合)を極力なくすことを目標にする。

この文章は、震災直後に第83回選抜高校野球大会(主催:毎日新聞社、日本高等学校野球連盟)を開催するために提示された七つある条件の中の一つです。先週のコラムでは、この中の「試合間インターバルを短縮」という部分について大食い番組の観点から述べてみました(震災直後の甲子園から見える世界(5)…大食い版「試合間インターバル短縮条項」)。しかし、実はこの文章には、大食い番組を連想させる言葉がもうひとつ入っていることに気づきます。それが「ナイター試合(照明点灯試合)」で、今週のテーマです。

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)のロケにおいては、大食い競技は基本的に一日2試合が組まれ、多くは一試合目を午前中、 二試合目を夕方ないし夜に行っていました。すがすがしい早朝の神社の境内 、南国の灼熱の太陽の下、澄み渡る青空の下で山から見渡す広々とした田園風景をバックに…そんな昼間ならではのセッティングで行われる大食い競技を、ここでは「大食い版・デーゲーム」と名づけてみましょう。すると、夜の大食いロケは「大食い版・ナイター」とでも呼べることになりそうです。

野球に詳しい方なら、デーゲームにはデーゲームの魅力があり、ナイターにはナイターの魅力があることは実感としてご理解いただけるかと思いますが、これと同様のことは大食いにも当てはまります。大食い版ナイターは、昼間とはガラリと雰囲気が変わります。競うようにネオンが輝く大都会、ライトアップされた名古屋城、イルミネーションに彩られたテーマパーク、暗闇の日本海に浮かぶイカ釣り漁船から煌々と照らしだされる大漁旗…過去に当番組を彩った、多種多様の凝りに凝ったロケ現場を今でも懐かしく思い出すことができます。そしてなぜか、夜間収録モノの方が昼間の収録よりも、後々まで強く心に残りやすいような気がするのです。

例として、2009年秋の男女混合戦のあったマカオの準決勝の思い出を挙げてみます。午前の準々決勝(ラムチョップのミントソース添え:元祖!食いだおれ決定戦(3)…マカオのミントソース)を終えた郊外の教会からマカオ中心市街まで移動してきた私たちですが、準決勝の会場で使用するセットも順調に設営完了かと思ったら、その後に異様に長い待ち時間に突入しました。選手は別室に案内されて休憩、スタッフは現場で手持ち無沙汰に雑談、あるいは周囲を写メで撮りまくったり、買いものに行く人もいました。

写真1) 司会の中村有志さんが選手席に座っており、スタッフが何やら打ち合わせをしています。

写真2) こちらは零クリエイトの酒井秀樹プロデューサーです。見るからに時間をもてあましている雰囲気です。後方では食材の準備が順調に進んでいます。いったいこの空き時間は何なのでしょうか?

片  「酒井さん、これって”何待ち”なんでしょうか?」
酒 「これは…”日没待ち”というか、”夜景待ち”です!」

大食いに限らず、夜景をバックに撮るテレビ映像には独特の世界があります。人類の発展の極致として構築された大都会と、その科学技術の一端としての豪華絢爛たるライトアップが織り交ざって奏でる人間賛歌…なんていったら大げさでしょうか?!テレビ業界における”日没待ち”とか”夜景待ち”という単語や概念の存在自体も、ちょっとした新鮮な驚きでありました。そして、その時が来たら、先ほどまでの光景はこんな感じに変わるのでした。

写真3) 後方に有名なマカオのカジノ「GRAND LISBOA」が見えます。周辺の建物が一斉にライトアップされた瞬間、思わずポーッと見とれてしまい、初めて都会に出てきたおノボリさんのように突っ立っていた私ですが、ようやく仕事を再開したスタッフの慌ただしさと、現場に何基も点灯したライトの眩しさで、ハッと我に返ったのでした。

そして東日本震災直後の甲子園、日本列島全体が節電の大号令下にある中、センバツ大会に関係するあらゆる人々が「ナイター回避」のためにキリキリしている様子でした。試合前のノックや攻守交替に試合間のチームの入れ替えまで、あらゆる場面で大会役員が「早く、早く」と急かす仕草が随所にみられましたが、選手たちはソツなくテキパキとそれに呼応し、結局大会期間中に点灯試合は一試合もありませんでした。

もちろん、震災直後の今だからこそ甲子園も率先して節電を、という趣旨は十分理解していますし、単に冒頭の条文内の「ナイター(照明点灯試合)」という文言を見て真っ先に脳裏をよぎったのが、私の場合はその対極としてのマカオの夜景だったというだけの話です。

ただ、過去の甲子園を振り返ると、至上最高の名勝負とされる1979年の箕島vs星稜の延長18回サヨナラゲームは、その劇的な試合展開もさることながら、それがナイターであったということがそのドラマ性を大きく引き上げたと思います。今も昔も、高校野球におけるナイターは日中の試合よりも強い印象として残りやすく、後に語り継がれる名勝負が生まれやすい傾向があるように感じます。その理由については、高校野球においてナイター自体が少ないこと(=少ない事柄は強調されやすい)、ナイターになること自体がすでに「長い待機時間」「接戦」「延長戦」など劇的展開の生まれやすい素地を秘めていること、などを考えていましたが、それに付け加えて、日中とはガラッと変わったライティングが生み出すナイターならではの独自の色彩が、より高揚したプレーや強調された記憶を生みやすくしているのかもしれません。そんなナイターの消滅は、少なくとも高校野球にとっては強力かつ魅力的なコンテンツの封印を意味するでしょう。そして、これまで野球ファンや大食いファンを虜にしてやまなかった「ナイター」を「電力のムダ」と書き換えなくてはならないご時世が日本に到来してしまったことを、心から残念に思うのです。

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