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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/07/01

震災直後の甲子園から見える世界(3)…笑顔の封印

2011年3月23日開幕の第83回選抜高等学校野球大会(主催:毎日新聞社、日本高等学校野球連盟)は、例年と異なる諸条件を付けての開催となりました。昨年までであれば、雄たけびにガッツポーズ、満面の笑顔、額や頬をつたう汗に涙などが珍しくもなく甲子園球場に溢れておりました。それが、今回の2011年3月11日の東日本大震災により、大会を取り巻く事情が大きく変わりました。「試合時間短縮」「鳴り物禁止」といった明文化された条項をもとに大会が進む一方、明文化されていない独特の空気が空気が球場を支配したのか、大会期間中を通して非常に目についたのが「笑顔の封印」という現象でした。

ちなみに、開会式で選手宣誓をしたのは、創志学園(岡山)の野山慎介主将でした:

一、東北高の欠席で15日に見送られていた選手宣誓役の抽選を、日本高野連・奥島孝康会長が行い、創志学園(岡山)の野山慎介主将と決まった。
(緊急寄稿(12)…国難の中でのセンバツ)

 

You Tube - 第83回選抜高校野球 選手宣誓(創志学園/野山主将)

彼の選手宣誓は、被災地のみならず、震災直後の日本全体へ向けた力強いメッセージでもありました。昨年創部したばかりの創志学園はメンバー全員が新2年生であり、必然的に野山主将も選手宣誓時は厳密には高校1年生ということになります。史上稀にみる高校1年生(おそらく甲子園史上最年少?)の選手宣誓としてはこちらの期待値を大きく超えた、真面目で落ち着きのある、とても大人びたメッセージでありました。おそらくこれまた、こちらの推測を大幅に超える極度の緊張の中で無事に成し遂げた、一世一代の大役だったことでしょう。

この悲愴感にも似た彼の真面目さは、以後の大会にも大きく影響を及ぼしました。程なく気づいたのは、大会初日以降次々とゲームに登場する選手たちの顔の引きつりや、感情表現の封印です。大会本部から多少は何らかの指示が出ていたでしょうし、監督・部長の指導もあったでしょう。しかし、大会本部や指導者が仮に「派手な言動は慎め」「ガッツポーズは控え目に」と言ったとしても、果たして「笑うな」とまで言ったのでしょうか。笑顔とは出すものではなく、出るものだと私は思っていたのですが…。先述の野山選手に限らず、客席から見てもテレビ画面で見ても、甲子園のセンバツ大会で選手がここまで笑顔を見せないのは近年では珍しく、ホームランを打っても劇的な勝利の瞬間でも選手は実に淡々としており、まるで紅白戦か練習試合を見ているようでした。

そんな甲子園大会を目の前にして、例によって私が連想してしまったのは、大食い番組における笑顔の扱いでした。『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)においては、大食い選手がその生来の性格の真面目さゆえ、勝負に真剣になりすぎて笑顔が少なくなりがちであることから、プロデューサーなど制作側が”ニコニコ美味しそうに食べる”選手を重用する傾向がみられるという話を、以前掲載したことがありました(フィギュアスケートと大食い…「ロシアン」という共通点(後編)。笑顔とは出すものではなないと考える私は、この妙な傾向に少々モノ言わずにいられなかった時期もありました。もっとも、真剣勝負の真っ只中の選手は試合中は笑顔を封印していたとしても、試合に勝利した瞬間や敗退の瞬間、時には満面の笑顔を爆発させ、時には大泣きの涙にくれたりします。決して感情そのものを封印していた訳ではなく、そもそも封印させること自体が難しく、封印させる必要すらないと思っていましたし、震災前までは何だかんだいってもそれで通用していたのです。

そして今、「それにしても…」とあらためて考え直してしまいます。少なくとも震災直後の甲子園の高校野球においては、せめて甲子園に立っている間だけでも、出場選手には普段どおりの野球を楽しんでもらいたいと私は思って見ていました。これまでの大食い番組の制作現場においても、大食い選手には誰に振り回されることもなく、正々堂々、悔いなく自分を表現することを優先して欲しいと願ってきました。しかし、エンターテインメントとはそもそもが、人間がありのままの感情を表出することが歓迎されるという状況下でないと成り立ちにくい側面があり、観客側にもある程度の心の余裕がある平時ならではの一種の取り引き(deal)なのかもしれません。今回の震災ではそんな前提部分が一瞬にして崩壊してしまい、奇しくも見えた「甲子園での笑顔の封印」と「大食い番組の放送自粛」という二つの現実が、今はまだ平時の感覚には程遠いということを黙して語っているのでしょう。

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