Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/05/20

緊急寄稿(9)…映画『DEJA VU』が日本へ発するメッセージ

2011年3月11日に東日本を襲った東北地方太平洋沖地震から、早くも二ヶ月以上経過しています。『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)の収録が終わった3月上旬には、まさか日本がこんなことになるとは想像もできませんでした。この収録後に日本と欧州を往復した際、往路では見れたのに復路ではブロックされて見れなくなっていたのが、先々週ご紹介したハリウッド映画『HEREAFTER』でした(緊急寄稿(7)…ブロックされたハリウッド映画『HEREAFTER』)。一方、往路・復路のいずれもブロックされずに見ることができた映画の中から今週ご紹介したいのが、2006年公開のアメリカ映画『DEJA VU』(監督:トニー・スコット、主演:デンゼル・ワシントン、配給:ブエナビスタ)です。

そのストーリーは、デンゼル・ワシントン扮する化学捜査官が、あるフェリー爆破事件の担当に配属されたところから始まります。現場検証で見つけた爆薬の種類、出勤してこない上司、数日前の他殺事件の被害者女性とフェリー爆破事件との間に浮上した思わぬ関連性、その被害者女性宅の家宅捜査時に主人公が感じた「説明のつかない既視感(DEJA VU)」の正体…。その後は、話が突飛なまでのSF的展開を見せます。アメリカの極秘プロジェクトとして誕生したという、「4日と6時間前にさかのぼるハイテク装置」(?!)なるものが突如登場、主人公は当初はこの装置自体に疑いの目を向けつつも、最終的にはこれを最大限に駆使することで、過去にさかのぼってフェリー爆破事件自体の阻止と(死んだはずの)被害者女性の救出を図るべく、フル回転の活躍を見せるのです。

この映画が他のタイムトラベル系SF映画と大きく異なる点は、タイムマシンが「4日と6時間前」にしかさかのぼれないという制約があることです。どの時点にも自由にさかのぼることが可能で、自分の両親の若い頃や、まだ見ぬ未来の息子に会うこともできた「Back To The Future」のタイムマシン(デロリアン)とは違い、「DEJA VU」の主人公に可能なのは、厳密に24時間x4+6=102時間前の瞬間のモニタリングに限られます(実は潜入も可能であることが後に判明する)。例えば、爆破事件の犯人が現われた時間と場所が(防犯カメラ映像などで)既に判明しているとします。すると、それが四日以内の話である場合、その102時間後に相当する瞬間は、これからやってくることになります。そのハイテク装置には、時間そのものを先送りや巻き戻しする機能はありません。従って捜査陣は、犯人が現われた時間の102時間後に相当する瞬間をひたすら待って乗り込むしかない…という、いささかややこしい話になります。ワンチャンスをモノにしなくてはならないプレッシャーと闘いつつ、眠さもこらえて大惨事からアメリカ市民を守るために、彼らは命がけで全力を尽くすのです。

東日本大震災前だった往路便の機内にてこの映画を見たときと、あの大震災が起こり、原発事故を中心とした海外のシビアな報道を連日浴びるように見た後、しかも『HEREAFTER』がブロックされているという異変つきの帰国便の中でこの映画を見たときとでは、全くといってよいほど受ける印象が激変してしまいました。それはもう私にとって、往路とはまるで別の映画でした。命を懸けてフェリー爆破事件を阻止しようとする主人公デンゼル・ワシントンの姿は、劣悪な労働環境の中を今も不眠不休の奮闘で日本を守ろうとしている福島第一原子力発電所の作業員の方々に、見事なまでにオーバーラップします。既に起きてしまった災害に対して何とかしたいという熱い想いは、まさにこの映画の主題そのものですが、今の福島に溢れている想いでもあることと思います。

ただ、震災直後のタイミングだからそう見えたのでしょうか。この『DEJA VU』という映画が強く発信しているのは、過去にさかのぼって真相を徹底追究することこそが(未来に起きうる)災難を回避する、というメッセージであるように思わずにはいられません。もし仮に、この映画のようにデンゼル・ワシントン氏が震災の百時間ほど前の東日本にタイムスリップして危険回避行動をとることが可能だとしたら、その限られた時間の中で私たちは彼に果たして何を(どの順番で)お願いすべきなのでしょうか。それ以前に、この日本にデンゼル・ワシントンはそもそもいるのか、いるとしたらそれは誰か…。帰路につく間、私はそんなことを延々とシミュレーションせずにはいられませんでした。そして多分、これからもずっと考え続けることになるでしょう。

この映画の骨子を一言でいうと「未来を解くカギは過去にあり」でしょうか。そして、そのカギとして具体的かつ丁寧に描写され、映画のタイトルにまでなったのが、過去と現在をつなぐ”理屈にできない動物的感覚”とでもいうべき「DEJA VU」(既視感)です。しかし、ハッと我に返ると目の前に広がっているのは、過去にさかのぼって真実を理性的かつ冷淡なまでに論理的に追求していくことよりも、ウヤムヤの責任回避と視野狭窄を重ねて得た繁栄と成長の中で、いつの間にか動物的な感覚を徹底的にそぎ落とされた究極の未来型享楽都市の、そのなれの果てとしてのライトも真っ暗で人通りも激減した”自粛・節電首都”であった…などというのが、この”日本版DE JAVU”(?)のラストシーンだとしたら、あまりに後味が悪すぎるホラー映画としか言いようがありません。なんとも複雑な心境のまま、震災や原発関連のニュースを見守っている今日この頃です。

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464