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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/04/15

緊急寄稿(5)…「German Angst」から「民族大移動」へ

先週は、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震および続発する福島の第一原子力発電所の事故以降、海外のお天気サイトが日本の気象情報を連日発信するようになったという話をしました。先週ご紹介したDWD(Deutscher Wetterdienst: ドイツ気象局)、ZAMG(Zentralanstalt für Meteorologie und Geodynamik: オーストリア国営気象局)およびスイスMeteoMedia社のホームページはいずれもドイツ語であり、「どうしてこの手のサイトはこうもドイツ語ばかりなのか?」と、当初は不思議に思ったものでした。もっとも、実は台湾やノルウェーも同様のシミュレーションを公開していることを後に知りました。

海外の放射能拡散予測サイト集

さすがに放射能拡散予測はドイツ語圏の専売特許というわけではなかったようです。しかし、ドイツ語サイトが多いという点はやはり気になるところです。このあたりの事情を説明するキーワードとして私の頭に真っ先に浮かぶのは「German Angst」です。

“Angst”とは「不安」という意味のドイツ語で、英語でいう”anxiety”に相当します。精神医学・心理学用語においては「不安」(Angst, anxiety)は対象や客観的根拠が不明確で漠然とした恐れをさすものとして、より明確な対象に対する恐れをさす「恐怖」(Furcht, fear)と区別されます。

それが「German Angst」となると、また違う意味を帯びてきます。”German”は英語ですが、”Angst”は本来ドイツ語です。Wikipediaの説明による「German Angst」とは、英語圏からみた「ドイツ人に特有の社会的ないし政治的な集団行動様式」としての不安感を指す用語とされています。そして、日本語の「津波」が既に”Tsunami”として英語化されているのと同様、”Angst”もまた既に英単語となっているようです。

他にも例として、「東西ドイツ統一」「湾岸戦争」でドイツ人が外交・安全保障などで見せた慎重な姿勢や、「鳥インフルエンザ」「BSE」「原子力発電所」「地球温暖化」などで見られたパニックをあおるかのようなマスコミ報道を挙げています。

ちなみに私はこのWikipediaの記載とは異なり、ドイツの報道のことをパニック報道だとは思っていません。ただ、今回の震災報道に関してはひとつ、大変印象的な現象を目のあたりにしました。それは、震災直後から各テレビ局が一斉にリポートしていた生中継の映像の背景にありました。それまではどの局も、特派員は新宿副都心や渋谷のスクランブル交差点をバックに渾身のリポートを披露していたものでした。それが、ちょうど福島第一原発の爆発が相次いだ頃からでしょうか。彼らのリポートの後方に見える風景がいきなり御堂筋になったのです。

 

この写真は、そんな中でただ一人、あくまでも東京からのリポートを続けた、ドイツ公営放送ARDの東京特派員の勇姿です。御堂筋組(?!)の写真は残念ながら撮りそこねてしまったのですが、その他にも「東京のとある地下室からスカイプ中継」などというものや、「福岡から携帯電話リポート」などというパターンもあり、日本人である私にとっては、笑うべきなのか真剣に考えるべきなのか計りかねるような映像の連続でした。この現象はある意味、マスコミ版「ゲルマン民族大移動」とでも言えるでしょうか。もっとも、地震発生翌日にはドイツ外務省から「日本への不要不急の旅行は控えるように」との勧告が出たのを皮切りに、3月15日よりドイツ・ルフトハンザ航空が成田発着便を廃止しソウル経由・関西空港(または中部国際空港)発着へ変更、3月16日には外務省が東日本ないし東京圏滞在中のドイツ国民に「大阪あるいは海外への退避」を勧告(同時に東日本への渡航の自粛も勧告)、3月18日には東京都港区にあるドイツ大使館が大使館業務を大阪の総領事館に移行…というドイツ側の事情を時系列で見ていくと、御堂筋軍団の行動もまた本国の論理に沿った合理的な行動であったことが理解できます。

なお、ドイツ大使館ホームページは日本へ渡航するドイツ国民に対し、福島原発周囲70km以内に立ち入らないようにとの警告文を今も掲載中です。大使館業務もまだ大阪に移転したままです。日本とドイツとの温度差は震災以降どんどん広がる一方ですが、これはゲルマン民族特有の慎重さとしての「German Angst」の一環と考えるべきなのか、それとも、万一ドイツ国内で同様の原発事故が起きたとしたら、彼らも今の日本と大差ない危機管理になるのか、気になるところです。それでも、日本国内で決して発表されない放射能拡散予測を一生懸命発信し続けるドイツのお天気サイトの中に、誰に向けられているとも知れない「German Angst」を私は日々感じているのかもしれません。


<参考資料>
Wikipedia – German Angst -

ドイツ大使館(東京)
http://www.tokyo.diplo.de/

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