2011/02/11
大食い予選に見る大食いの資質(2)…「太っていた既往」と「ダイエット」
先週は、『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)という番組において「本選」「予選」「新人戦」という三つのカテゴリーが存在し、それぞれ参加選手の競技レベルに差があること、そのため必然的に求められる選手の資質や医師のケア内容も異なってくることなどについて説明しました。
どのような超ド級の大食い選手も、登竜門としての「予選」や「新人戦」といったレベルを経ないことには「本選」というステージに上がることはできません。その辺は、プロ野球などのスポーツ選手にも通じる部分があります。例えば、プロ野球選手になるために必要なものは何でしょうか。健康で大柄な肉体、足の速さ、敏捷性、視力、手先の器用さ、関節の柔軟さなどとなると、親から受け継いだ遺伝的要素の比率が大きくなりがちです。しかし、ある種のパワー(筋力・持久力)、頭脳プレーや状況判断のできる「野球アタマ」に「野球センス」、ピンチにも動じない精神力などは、後天的に鍛えることがある程度可能であり、指導スタッフの教え(特に少年野球・高校野球などの若い時期の指導者の影響が大)やグラウンド・用具・器具などの練習環境の整備、さらに本人自身の意志や鍛錬の内容などが大きく影響してきます。その辺が、親から受け継いだ素質だけで勝てるほど野球の世界は甘くないと言われるゆえんでもありますが、実は大食いの世界もこれと全く同じなのです。ここが大事なのですが、大食い界とは、世間が思うよりもはるかに後天的要素の方が先天的要素よりも重要なウェイトを占める競技であり、決して「そういう体質の人だから」などという他人事の話でないということは、医師として重ねて強調すべき事項と考えます。
ということで、今週からは、当番組の予選を継続的に担当するうちに見えてきた「後天的に大食いの能力を獲得するためのキーワード」について紹介していきたいと思います。そして、そのトップバッターはズバリ、「太っていた既往」です。
当番組の最高峰である「本選」をご覧になった皆様は、登場する大食い選手があまりにみんな痩せていることに驚かれていることと思います。「やせの大食い」という言葉を思い出される方も多かったのではないでしょうか。それが、「予選」「新人戦」のレベルになると、ぽっちゃり系・どすこい(!)系の選手もそこそこ混じってきます。世間的には、彼らのような人こそ大食いと思われがちですが、予選が終わってみればそのような方々は全滅しているのが当番組の現実であります。それでは、そのような方々を破って本選に進むスリム系・モデル系の選手たちは生まれつき細身だったのかというと、必ずしもそうではありません。彼らからは、驚くべき話が聞かれることがあります。例えば、昨年秋の男女混合戦で北海道予選から驚異の快進撃を見せて、本選初登場の新人ながら2位となった手代木純一さんは、大会前の問診でこのようなことを言っていました。
「僕、昔はすごく太っていたんですよね。体重が90kg以上あった時期がある(現在は59kg程度。身長171cm)」
「元々結構食べる方だったが、ダイエットして体重が減った途端、逆にもっと入るようになった」
実は、本選出場選手に限らず予選においても、勝ち進んだ大食い選手から比較的よく聞かれるのがこの「太っていた既往」です。それも、その太り方が半端でないケースのほうが大食い選手として強くなりやすいという印象さえあります。それでいて、実際に競技に勝利する段階では皆さんスリムな体型となっているということは、「ダイエット」もまた大食いにとって切り離せない重要な要素であることを示唆しています。それは、前回放送された新人戦の三重大会で2位になった選手の話にも表れています。現在は愛知県内でスナックを経営する彼女は、元モデルだったそうですが、その後に100キロ越えの肥満を経験、さらに一念発起して過酷なダイエットに成功したことで、大食いの能力が開花したようです。
「私生活のストレスで、やけ食いのやけ太りとなって、100キロを越えた。これではいけないとダイエットし、一番やせた時点で50キロ程度。途端に(食べ物が)すごく入るようになった」
「このダイエットが、長期の断食のような内容で、人には勧められない危険な代物だった。ダイエットの成功体験を取材に来たテレビ局が、これはとても放送できないと帰って行った」
「しかし今は、仕事で楽しく飲んだり食べたりするため、体重は徐々にリバウンド中(笑)。でも自分はこれで良い。今は十分幸せで、今以上に食べたいとも痩せたいとも思わない」
彼らの話に共通して見えてくるのは、人が大食いとなる、つまり胃拡張を発生する契機としての「太っていた既往」と「ダイエット」の役割です。よく考えれば、この二つはかならずしも並存するとは限らず、太っているけどダイエットせず放置している人もいれば、太ってもいないどころか他人よりもはるかにスリムなのに「自分は太っている」と思い込んでダイエットに邁進する人もいます。ただ、この二つのキーワードがコインの表と裏のように揃い踏みした場合に、どうも人体に与える胃拡張効果がマックスとなるのではないか…というのが私の推測です。この手の話を私は実はずっと以前から本選出場選手とバスの中でよく議論していました。そこで、「なかなか(胃の)容量が増えない」 と悩んでいた某選手が、私の話を聞いてこうつぶやいたことがありました。
「あの頃、もっと太っとけば良かったのか…」
あまりに真剣な顔をしてそんなことを言うものだから、こちらが逆にとても驚いたものです。というのも、とてもスリムなその選手が、実は太りやすい体質を気にしていた時期がある…ということ自体を、その話で初めて悟ったからです。
ちなみに、ダイエットしてスリムになった途端に胃の容量がアップする機序については、以前に考察したことがあります。以下の記事を参考にしてください:
徹底検証?!大食いの資質(4)…胃ヂカラ・体脂肪率編
ここまで来て、この「太っていた既往」「ダイエット」という二つの単語からは、大食いと高確率で相関する別のキーワードも連想されます。これについては、来週あらためて考察してみたいと思います。
どのような超ド級の大食い選手も、登竜門としての「予選」や「新人戦」といったレベルを経ないことには「本選」というステージに上がることはできません。その辺は、プロ野球などのスポーツ選手にも通じる部分があります。例えば、プロ野球選手になるために必要なものは何でしょうか。健康で大柄な肉体、足の速さ、敏捷性、視力、手先の器用さ、関節の柔軟さなどとなると、親から受け継いだ遺伝的要素の比率が大きくなりがちです。しかし、ある種のパワー(筋力・持久力)、頭脳プレーや状況判断のできる「野球アタマ」に「野球センス」、ピンチにも動じない精神力などは、後天的に鍛えることがある程度可能であり、指導スタッフの教え(特に少年野球・高校野球などの若い時期の指導者の影響が大)やグラウンド・用具・器具などの練習環境の整備、さらに本人自身の意志や鍛錬の内容などが大きく影響してきます。その辺が、親から受け継いだ素質だけで勝てるほど野球の世界は甘くないと言われるゆえんでもありますが、実は大食いの世界もこれと全く同じなのです。ここが大事なのですが、大食い界とは、世間が思うよりもはるかに後天的要素の方が先天的要素よりも重要なウェイトを占める競技であり、決して「そういう体質の人だから」などという他人事の話でないということは、医師として重ねて強調すべき事項と考えます。
ということで、今週からは、当番組の予選を継続的に担当するうちに見えてきた「後天的に大食いの能力を獲得するためのキーワード」について紹介していきたいと思います。そして、そのトップバッターはズバリ、「太っていた既往」です。
当番組の最高峰である「本選」をご覧になった皆様は、登場する大食い選手があまりにみんな痩せていることに驚かれていることと思います。「やせの大食い」という言葉を思い出される方も多かったのではないでしょうか。それが、「予選」「新人戦」のレベルになると、ぽっちゃり系・どすこい(!)系の選手もそこそこ混じってきます。世間的には、彼らのような人こそ大食いと思われがちですが、予選が終わってみればそのような方々は全滅しているのが当番組の現実であります。それでは、そのような方々を破って本選に進むスリム系・モデル系の選手たちは生まれつき細身だったのかというと、必ずしもそうではありません。彼らからは、驚くべき話が聞かれることがあります。例えば、昨年秋の男女混合戦で北海道予選から驚異の快進撃を見せて、本選初登場の新人ながら2位となった手代木純一さんは、大会前の問診でこのようなことを言っていました。
「僕、昔はすごく太っていたんですよね。体重が90kg以上あった時期がある(現在は59kg程度。身長171cm)」
「元々結構食べる方だったが、ダイエットして体重が減った途端、逆にもっと入るようになった」
実は、本選出場選手に限らず予選においても、勝ち進んだ大食い選手から比較的よく聞かれるのがこの「太っていた既往」です。それも、その太り方が半端でないケースのほうが大食い選手として強くなりやすいという印象さえあります。それでいて、実際に競技に勝利する段階では皆さんスリムな体型となっているということは、「ダイエット」もまた大食いにとって切り離せない重要な要素であることを示唆しています。それは、前回放送された新人戦の三重大会で2位になった選手の話にも表れています。現在は愛知県内でスナックを経営する彼女は、元モデルだったそうですが、その後に100キロ越えの肥満を経験、さらに一念発起して過酷なダイエットに成功したことで、大食いの能力が開花したようです。
「私生活のストレスで、やけ食いのやけ太りとなって、100キロを越えた。これではいけないとダイエットし、一番やせた時点で50キロ程度。途端に(食べ物が)すごく入るようになった」
「このダイエットが、長期の断食のような内容で、人には勧められない危険な代物だった。ダイエットの成功体験を取材に来たテレビ局が、これはとても放送できないと帰って行った」
「しかし今は、仕事で楽しく飲んだり食べたりするため、体重は徐々にリバウンド中(笑)。でも自分はこれで良い。今は十分幸せで、今以上に食べたいとも痩せたいとも思わない」
彼らの話に共通して見えてくるのは、人が大食いとなる、つまり胃拡張を発生する契機としての「太っていた既往」と「ダイエット」の役割です。よく考えれば、この二つはかならずしも並存するとは限らず、太っているけどダイエットせず放置している人もいれば、太ってもいないどころか他人よりもはるかにスリムなのに「自分は太っている」と思い込んでダイエットに邁進する人もいます。ただ、この二つのキーワードがコインの表と裏のように揃い踏みした場合に、どうも人体に与える胃拡張効果がマックスとなるのではないか…というのが私の推測です。この手の話を私は実はずっと以前から本選出場選手とバスの中でよく議論していました。そこで、「なかなか(胃の)容量が増えない」 と悩んでいた某選手が、私の話を聞いてこうつぶやいたことがありました。
「あの頃、もっと太っとけば良かったのか…」
あまりに真剣な顔をしてそんなことを言うものだから、こちらが逆にとても驚いたものです。というのも、とてもスリムなその選手が、実は太りやすい体質を気にしていた時期がある…ということ自体を、その話で初めて悟ったからです。
ちなみに、ダイエットしてスリムになった途端に胃の容量がアップする機序については、以前に考察したことがあります。以下の記事を参考にしてください:
徹底検証?!大食いの資質(4)…胃ヂカラ・体脂肪率編
ここまで来て、この「太っていた既往」「ダイエット」という二つの単語からは、大食いと高確率で相関する別のキーワードも連想されます。これについては、来週あらためて考察してみたいと思います。