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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2011/01/21

驚異の104歳児(?!)が語る『よく噛め』の大食い的意味

先週は、昨年の日本脳神経外科学会第69回学術総会で聞いた文化講演について取り上げました。「104歳児・世界一元気な教育学者」こと、しいのみ学園理事長・園長、福岡教育大学名誉教授の曻地三郎さんが語る『104歳児・サブちゃんの十大習慣健康法~脳内・体内時計との関係や如何に?~』なる内容は、日頃あまりに長寿とは無縁の非健康の極致のような生活をしている疲弊気味の脳神経外科医たちにとって、全てが新鮮かつ発見の多い講演だったことと思います。その104歳児が語る長寿の秘訣はいくつかあり、先週はそのなかの一つである「少食」について説明しました。

実は、先週のコラムであえて紹介せず今週のために温存(?)していた項目があります。それが、今週のテーマである『よく噛むこと』です。

曻地氏が自らの健康法の第1項として挙げたのは、「75歳で総義歯(よく噛むため)」でした。そしてさらにこのように続けました。

「(よく噛むことは)母の教え。100年以上噛み続けている」
「(よく噛むことは)免疫力を高める効果があり、過去の四大感染爆発もこれで克服」

ちなみに、ここでいう四大感染爆発とは、スペイン風邪(1918-19)、アジア風邪(1956-57)、香港風邪(1968-69)、ソ連風邪(1977-78)(注※)という4つのインフルエンザ流行を指すようです。

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)では、冒頭部分に「大食い三か条」の唱和というコーナーがあることを、ファンの方ならご存知のことと思います。その時に、私が白衣姿で一言注意事項を述べる場面が毎回収録されています。しかし、最近なぜかこのシーンがカットされていることが多く、全く形式的なカットとなっているのが現状です。

以前、このカットを収録する際に私がよく言っていたのは、
「よく噛んで〇×△…」「よく味わって□※◎…」
といったセリフで、これは完全に私のアドリブから出たものでした。それが最近では、「スタッフの言うことをよく聞いて」と言うことが増えました。これは、元々台本通りのセリフでもあるのですが、スタッフが常日頃から大食い競技前に「よく噛んで食べるように」と口を酸っぱくして言っていることと、オンエア映像にも「選手にはよく咀嚼するよう指導しています」というテロップが必ず流れるので、重複を避ける意図もあるのかもしれません。

それはちょうど、参加選手の実力がズンズン向上し、競技レベルが天井知らずのように上がっていった時期とも一致します。そして、この頃から参加選手は、こちらが目を疑うほどに、食材を噛まなくなっていったのです。

それもそのはずです。いつの間にかレベルが上がりすぎた当大会が、”ゆっくり味わって食べていたのでは勝てない時代”に突入していったからです。

それと平行して選手に求められたのが、”キレイに食べること”です。”キレイに食べる”ということは、何ら時間制限が課せていない日常の状況下であれば、もちろん推奨されるべきものであります。しかし、それが『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)のような時間制限を伴うものだった場合は、どうなるでしょうか。”ガツガツ食べる”ということは、見た目は多少汚くとも、選手が食材を精一杯よく噛んでくれていることを意味するため、医師の観点からみたら実はまだ安心できます。しかし、テレビ画面で一見”キレイ”に食べているように見える人の食べ方は、医学的観点から見た場合、それはもう寒気のするような質のものです。なぜなら、スピードを伴う競技仕様の”キレイ”な食べ方とはすなわち、一口を大きく取って、それをほとんど噛まずに飲み込む食べ方に他ならないからです。

話は戻り、曻地氏の講演の帰りに私は、福岡の夜景を眺めながら再び考えこむのでありました。”キレイに食べる”ことは、テレビ的には是とされるものでも、医師としてはとても同調できない代物であるということ。そして、そのような食べ方を身につけていること自体が必然的に意味しているであろう、その選手の人生の深い闇を、私たちはどのように直視するのが一番本人の為になるのだろうか…ということ。

当番組に出演して闘争心を燃やす大食い選手を見ていると、「頑張ることで他人に評価されたい」という気持ちを強く持って番組に全力でぶつかってくるということは、例えばスポーツ選手や一流科学者などの世界と何ら変わりはありません。それが多少なりとも努力の方向が歪んでしまうことや、回り道なり逆効果になることもまた、どんな世界にでも誰にでも起きうることなのです。それを十分承知の上で、私が彼らに切望することは、誰の思惑にも左右されることのない、悔いを残すことのない自分なりの幸せな人生をつかみ取ってもらうことです。そのために、二週にわたってあえて紹介したこの「驚異の104歳児の十大健康法」が、彼らにとって何らかのヒントになってくれることを願っています。

 

(講演を終えて記念撮影に臨む曻地三郎氏(左)と、今回の学会会長でもあった九州大学脳神経外科教授・佐々木富男氏(右))

(注※) 曻地氏の講演では1977-78年のインフルエンザは「ソ連風邪」ではなく「ロシア風邪」と紹介されていました。調べたところ、1977-78年に流行したインフルエンザは諸外国では「ロシア風邪」(Russian Flu)と表記されていますが、日本では「ソ連風邪」と表記されており、ここではそれに従いました。また、この「ソ連風邪」は世界的流行(パンデミック)ではなく局地的流行(エピデミック)だったこ とや、感染者のほとんどが当時23歳以下の若者だったことが知られており、曻地氏がこれに感染しなかったことと『噛むこと』との間に因果関係を見出すのは困難かもしれません。ちなみに、これとは別に1889-1890年に大流行した「ロシア風邪」もあり、こちらはパンデミックに分類されています。

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