Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2010/12/10

大食いケミストリー(4)…生卵と納豆の共通点は「レシチン」だった

2010年も終わりが近くなってきましたが、いつの間にやら『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)は再始動しております。地方四都市を舞台とする新人女性発掘戦の収録が11月27日より始まり、12月12日には新人王が決まることとなっております。この新人戦の模様は、来年1月8日のオンエアを予定しています。皆様でお楽しみ下さい。

さて、当番組に過去に出演してきた大食い選手との話の中からは、彼女たちが日頃の食生活の中で意図せず掴んだ経験則として、学校の授業で習った訳でもない驚くべき化学的見識が浮かび上がってくることがある…というのが先週までの話でした。そして、当番組のロケバスの後部座席でそんな選手同士の情報交換を聞いていると、思わぬ発見も色々とあるのです。

胃酸欠乏時のオレンジジュースの効能は、2009年秋の大食い王となったアンジェラ佐藤さんが実践してその感想を語ってくれた事が大いなるヒントになったということを、以前のコラムで述べました(→大食いケミストリー(2)…コーヒーvs. オレンジジュース)。しかし、このロケで彼女が例として挙げてくれた「大食い後に摂取すると体が楽になる食べ物」は、実はこの他にも色々とありました。そして、先週のマヨネーズの乳化剤として名前のあがった「卵」は、実は彼女が真っ先に挙げてきた食材の中の一つでした。

マヨネーズは、本来「水と油」であり混ざり合うはずのない「酢」と「油」を混ぜ合わせることで作られます。その両者を混ぜ合わせて乳化(エマルジョン化)する際に必要なのが、生卵の黄身の中に含まれる「レシチン」という乳化剤です。それは、ガンコな泥や油汚れのついた衣類を洗濯機で洗う際に、洗剤という名の界面活性剤(≒乳化剤とほぼ同義)が欠かせないのと同様です。

人体が食事を消化するためには、食材を消化液の中で溶かす必要があります。一般的な食事の後であっても、大食い競技の直後であっても、胃の中に油成分と水成分が混在する状態は決して珍しくないでしょう。であれば、胃の中で食べ物をよく溶かして胃酸や消化酵素との混ざり具合を良くしようと思えば、ある程度の「乳化剤」を胃に入れることは大変合理的な行為と考えられます。

そこで、先述のレシチンについてもう少し調べてみましょう。レシチンには、卵黄を原料とする「卵レシチン」と大豆を原料とする「大豆レシチン」の二種類が一般によく知られています。国立健康栄養研究所のホームページには、「レシチンは卵黄、大豆、酵母、カビ類などに含まれるリン脂質である」と書いてあります。大豆と酵母と言われれば、真っ先に思い出すのは納豆でしょうか。そこで調べてみると、納豆もまた実はレシチンを高濃度含有することで有名な食品だとわかります。全国納豆協同組合連合会の納豆PRセンターのサイトに乗っていた記載を下記に引用します。

「ところで大豆100グラムには、レシチンが1,480ミリグラムも含まれていて、他の食べ物に比べて圧倒的な含有量を誇ります。納豆は大豆よりはるかに消化吸収されやすい状態なので、レシチンを効果的に身体に取り込むことができるわけです(ちなみに同じ大豆加工食品である「豆腐」には、りん脂質はほとんど含まれていません)。 」

この納豆PRサイトでは、リン脂質が脳神経組織の重要な構成成分であることからの連想か、「納豆イコール老化防止!脳活性化!」という観点を前面に押し出して文章が書かれていますが、実は前述の国立健康栄養研究所のホームページを詳細に読めば分かるのですが、残念ながらヒトに関してはレシチンの脳神経に対する有効性はきわめて悲観的なものであると言わざるを得ません。むしろ納豆PRサイトは、「納豆イコール胃内容物乳化剤!その結果として消化不良解消!消化吸収促進!」という観点を押し出せば良いのにと突っ込まずにはいられません。なぜなら、私の元には大食い選手たちの証言が既に集まっており、そっち方面の有効性は間違いなく立証可能だと思われるからです?!

さて、今週の話は卵から納豆へと急転回しました。なぜこんな話になったのかというと、「卵」と「納豆」という組み合わせこそが、実はアンジェラ佐藤さんがマカオロケで私にこっそり教えてくれた話そのものだったからです。「今までの経験では、大食いした後に食べると良かったのは、生卵と納豆」と彼女が言ってきた際、彼女の頭の中には「レシチン」という化学物質も「乳化剤」という概念もおそらく無かったのではないかと思います。しかし、彼女がそれらの概念を書物ではなく体で学び取っていたということに、私は純粋な驚きを禁じえないのです。そして、他の選手たちの発言も振り返りつつ話を統合していけば、「大食いケミストリー」がさらに形になっていくような気がしてきているのです。そんな意味でも、大食い選手たちとの交流は日々発見の連続で、随分色々と勉強させていただいているということを、改めて実感しています。


<参考資料>
国立健康栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報 レシチン(Lecithin)

全国納豆協同組合連合会 納豆PRセンター 「納豆百科事典」
バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486