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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2010/12/03

大食いケミストリー(3)…「マヨラー」となる化学的根拠?!

先週は、アメリカの学生用の化学参考書”Chemistry for Dummies” (John T. Moore著)の中から、私たちの身の回りに存在する物質のpHを列記した興味深い表について述べましたが、今週もどう内容を再掲します。

人間の血液        7.3
牛乳            6.5
ブラックコーヒー     5.5
ソフトドリンク       3.5
酢              2.8
レモンジュース      2.3
(pH数値が少ないほど酸性度が強く、pH7.0が中性)

先週はフルーツジュースの酸性度に着目しました。特に、大食い競技直後(特に連戦時)に必然的に伴う消化不良に、胃酸の補充としてのオレンジジュースが有効であった事例について記述しました(→大食いケミストリー(1)…オレンジジュース療法、驚きの効果、→大食いケミストリー(2)…コーヒーvs. オレンジジュース)。この「食事には酸!」という組み合わせは、今も昔も日常生活において頻繁に遭遇するものです。これから多くなるであろう忘年会などにおいても、例えばカクテルのリストを見れば、ギムレット(ジン&ライムジュース)やスクリュードライバー(ウォッカ&オレンジジュース)にソルティドッグ(ウォッカ&)など、フルーツジュースを用いたものが極めて多く、また、チューハイのリストを見てもレモンサワーやグレープフルーツサワーなど多種類あり、特に生絞りのフルーツを使用したサワーは高い人気を誇ります。これもまた、酒の席でのコッテリしがちな食事による胃もたれの防止と消化吸収促進を狙った生活の知恵とも考えられます。

しかし、今週着目するのは、「酢」です。ただし、いくら胃酸が不足していても、さすがにお酢を原液で飲むのは匂いも刺激もキツすぎて、とても無理でしょう。従って、酢を摂取しようと思ったら、どうしても少量摂取とならざるを得ません。「酢漬け」「三杯酢和え」などといった調理法に酢を使用するか、何倍にも希釈したドリンクとするか、酢入りサプリメントとして内服するなどといった方法が採られます。

ここで思い出すのが、酢を使用した調味料のうち酢独特の刺激も匂いも強くない「マヨネーズ」であります。なぜ、先のpH表で「酢」の文字を見て、よりによってマヨネーズが真っ先に思い浮かぶのかというと、それは大食い選手に「マヨラー」が非常に多いからであります。

当番組に過去に出演した選手には、「食べ物には何でもマヨネーズをかける」と公言する「マヨラー」が比較的高率にみられました。巨大なマヨネーズのチューブを肌身離さず持ち歩くケースなど、実に鮮明な記憶として残っています。医学の世界では、「大食い」(特に炭水化物の過剰摂取)に伴うミネラル・微量元素の不足およびそれに起因する「味覚障害」の概念が知られており、「大食い界のマヨラー」もその一種ではないかと当初私は考えていました。しかし、今回の”Chemistry For Dummies”を何度も読み返し、化学的観点から考え直すと、違う考えも成り立ちそうです。ひょっとして、大食い選手にとってのマヨネーズは、「代替胃液」としての役割も果たしているのではないか(…少なくとも選手はそう体感しているのではないか?…)という推測が、上記の表を見て唐突に浮かんできたのです。

なぜそのような推測が成り立つのかを説明するためには、「マヨネーズ」の組成を知る必要があります。Wikipediaによると、マヨネーズとは「食用油、卵黄、酢またはレモンジュースから成るエマルジョン(乳剤)」とあります。エマルジョンとは、通常は混ざらない水と油が、乳液のように混ざり合っている状態の液体であり、この場合は卵黄が酢と油を混ぜる乳化剤の役目を果たします。

ここで思い出すのは、これまで取り上げてきた「胃液」とはそもそも、「胃酸」と「粘液」から成るということです。胃の壁から分泌されるのが「酸」ばかりだと、胃の壁そのものが溶けてしまいます。これを防ぐべく、胃壁からは胃粘膜保護のために粘液成分(これも一種のエマルジョン)が分泌されています。これが、酸と油が溶け合い乳液状となったマヨネーズにも重なるのでしょうか。大食い選手が食べ物にマヨネーズを大量にかける姿は、酸のみならず粘膜保護成分の補充をも狙ったものなのではないかと、一瞬私は考えたのです。

もっとも、先述のWikipediaには、「市販のマヨネーズの脂肪分は70-80%」とも書いてあります。つまり、マヨネーズの主成分はあくまでも油であり、代替胃液としての効果を期待するには酢酸の量が少なすぎるように思います。大食い界に多い「マヨラー」が意図していたのは、実は粘膜保護剤としてのエマルジョン(乳液)の大量摂取だったのでしょうか。もっとも、酸の補充も度が過ぎると、歯や胃粘膜を損傷して胃潰瘍などにもつながりかねず、適度の油分もまた必要であり、マヨネーズや牛乳などのエマルジョン食材をうまく食生活に利用することも重要と考えられます。過ぎたるは及ばざるが如し…食生活に最も必要なのはバランス感覚だとつくづく思う今日この頃であります。


<参考資料>
Wikipedia – Mayonnaise
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