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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2010/10/29

大食い国内ロケの意味(2)…番組輸出への足がかり!?

本年秋の男女混合戦こと『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)は、大食い戦士たちによる熾烈な競技会というよりも、愉快な仲間たちによる楽しい東北・北海道旅行という色彩の濃い大会となった感がありました。2007年春から本年春まで海外ロケを行っていた当番組は、海外での大食い競技の様子を伝えるだけでなく、ご当地の景勝や世界遺産に名産品などを紹介することも忘れてはおらず、その点では旅番組としての要素もふんだんに盛り込んだ内容になっていたものでした。となると、国内ロケに戻った当番組は、日本国内の観光案内および各地の名物料理の大食いを組み合わせた、文字通りの「にっぽんグルメ紀行」と位置づけることになるのでしょうか。これは、「田舎に泊まろう!」などの制作実績でも知られるTV東京および制作会社ゼロクリエイトの最も得意とするジャンルでもあります。(●→大食い海外ロケの意味(2)…メリット編

ただ、私は別の考えを持っています。最近、日本への一時帰国の際、とあるアジア系航空会社のシートプログラムの中に、何とあのテレビ・チャンピオンの過去のVTRを発見しました。といっても、その内容は「大食い選手権」からのものではなく、「回転寿司職人選手権」でした。回転寿司店勤務の寿司職人チームが三人一組となって制限時間内に握り寿司をどんどん握っていく、いわゆる「寿司の早握り選手権」なのですが、それだけでは面白くないと考えたのか、驚きのルールが追加されていました。それは、「相手チームの握った寿司を食べて減らしてもよい」という裏技です。味方の握った寿司を置いていく役割の人物は、必ず帰りに相手チームの握った寿司を口に放り込んで走り去ります。そうすると、減った分の寿司も追加で握らないといつまでもゴールできません。味方の寿司を食べられてしまったチームは、減った分の握りを補充しがてら、帰り際に自らも対戦相手の握りをパクついて対抗する…そんな形でレースが進むため、寿司職人の「早握り能力」以上に「大食いの容量」が勝敗に大きく影響してしまうという、実にテレビ東京&ゼロクリエイトのカラーが濃厚に反映された愉快な番組でした。

この他にも、別の航空会社のシートプログラムには「ガイアの夜明け」(英語訳)が入っていたりと、近年のTV東京はコンテンツの海外進出(空への進出?)がめざましいように見受けられます。それならば、われらが『元祖!大食い王決定戦』の海外輸出も、日本文化を紹介するコンテンツとして検討されておかしくはないように思われます。

というと、「外国人からみたら、大食い番組は食糧難の国々への配慮や、子供への教育上の配慮などの観点から敬遠されるべきである」「大食いが日本文化と思われては困る」などと意見が噴出することでしょう。その意見自体は十分に理解可能なものであります。しかし、それならば、教育上の配慮のなされた日本のコンテンツのみが海外に紹介されているのでしょうか?と問われれば、かならずしもそうとは言えないと、少なくともドイツのテレビを日々見ていると強く反論せざるを得ません。ドイツでテレビを見ていると、日本を紹介する番組といえば、秋葉原のオタク文化にマンガにカラオケといった内容を目にすることが比較的多い傾向にあります。しかし、その中でも「枕と結婚式を挙げる日本の男」なる人物が以前ドイツの国営放送で取り上げられた際には、さすがに私も頭を抱えたものでした。案の定、翌日になったら「何で枕と結婚なのか?日本には女性はいないのか?」などと周囲にからかわれ、私はもはや説明する気力も失っていました。

しかし、これまで随分たくさんのドイツ人に当番組『元祖!大食い王決定戦』の録画映像を見せてきましたが、こちらは概して好評でしたし、彼らのリアクションもまた興味深いものでした。まず、「食糧難の国」を引き合いに出すことは一切ありません。「大食いショー」なるものはそもそも先進国特有であり、飽食社会の中でこそ起きうる現象であるというのが彼らの理解なのです。そして、そんな「日本(JAPAN)」という国には、ごく少数の人間ではあるが、食材を5キロ10キロの単位で平らげることのできる人間が確かに存在している…そういう事実があることをこの番組は(多少の脚色はあっても)ありのままに教えてくれている…。その認識があるからこそ、『元祖!大食い王決定戦』は、他のどの国にも全く前例の稀少なドキュメンタリー番組として、彼らの心に強くその印象を刻むのです。

他方で子供はというと、色々考える大人とは違い、鑑賞時にはあくまでも競技の勝負に一喜一憂します。彼らの視線は、基本的にはサッカーの国際試合を観戦する時と何ら変わりがありません。彼らがこの番組から受け取るメッセージは、「食べるという、誰もが毎日当たり前のように行っている行為ですら、人間は隣の人には絶対に負けたくないと思うものなのか!」「負けん気とは人間の本性!」といった、スポーツの試合そのものを見るのとはまた角度の違う人間論であったり価値観であるようで、そんな側面もこの番組の(ドイツにおける)衝撃度の高さの一角を成しているように見受けます。

ドイツ人以外の外国人に見せたわけではないので、突っ込んだことは言えませんが、日本においては、『元祖!大食い王決定戦』をドキュメンタリーとしてみる視点や、大食いという現象をありのままに受け止めるという視点は、果たしてどの程度存在するのだろうかと考えることがあります。「本選レベルの大食い」を可能にする肉体とは、決して生まれたままの状態で何の努力もなく獲得されるものではないということが、医学的には何ら疑いの余地がないにもかかわらず、世間には必ずしも共有されているとはいえない現実があります。そして、大食い選手の長い人生の一端の発露としての「大食い」という能力をありのままに受け止め、その背景も含めた大食い選手たちという存在をドキュメンタリーの主人公のように尊重する(私の周囲の少数の)ドイツ人視聴者を見ていると、この番組はむしろ欧州に出すべきコンテンツなのではないかと強く実感するのです。もし機会があれば、今後またこの番組を(欧州以外の)他国の人にも見てもらって、そのリアクションを観察分析してみたいと思っています。

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