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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2010/06/25

ハワイの思い出(5)…アメリカの救急車

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)のハワイロケは、これまで書いてきたように、色々な思い出の詰まった貴重な体験でした。大食いの熱戦も全て終了し、丸一日のフリータイムもエンジョイし、ちょうどホテルに帰ってきた時の出来事…今回は、そのことについて説明したいと思います。

私が映画鑑賞と買い物を終えてホテルに戻ってきたら、ロビーに一人の日本人女性が倒れていました。隣にはご主人と思われる方が座っており、その周りをホテル関係者および旅行代理店の担当者が心配そうな表情で取り囲んでいたのでした。

その後しばらくして、救急車がやってきました。日本の救急車だと、救命救急士が2~3名乗っているだけのことが普通ですが、そこはさすがアメリカの救急車、乗っている人数が半端ではありません。制服姿の男性救命救急士が4名位、同じ制服の女性救命救急士が1名、そして最後に、研修医ないしは看護師あるいはECP(Emergency Care Practitioner:来週解説予定)と思われる若い手術着姿の女性が、次々とゾロゾロ出てきました。

最後に出てきた女性のことを私が「救命救急士」ではなく、「研修医ないし看護師あるいはECPと思われる」と考えたのは、彼女が20台前半にしか見えない若いアジア系女性であったことと、現場到着以降の彼女の行動パターンが、他のメンバーとあまりに違っていたことによります。

日本では、「ドクターカー」や「ドクターヘリ」というように、初期救急の場面にドクターがついてくるケースもあります。しかし、このような場合、日本の医師は同乗の救命救急士(あるいは看護師)に対して指示を与えつつも、自らも手を出しながら、人員の少ない現場を少しでも助けようとするものです。

しかし、このアメリカの手術着の女性、口だけ出して絶対に手は出さないのでした。
「ライン取って!」(=留置針を血管に入れて点滴につなぐこと)
「酸素○リットル、マスクで」
「患者は仰向けのまま寝台へ」
次々と口頭で指示を出しつつ、自らは腕を組んで見ているだけです。そして周囲は、人数が多いだけあって指示は何とか遂行されているものの、点滴針を刺す役目の女性救命救急士ほか2人位が四苦八苦していて、あとの数人はボケーッとしている感じでした。

ちなみに、患者さんに点滴をする場合、病院では点滴台に点滴バッグを掛けます。バッグを腕よりも高くすることで初めて、点滴内容が落差により腕に入っていくためであり、腕につないだ点滴バッグを腕よりも下げると、血が点滴チューブへと逆流してきます。ですが、このホテルのように、救急の現場には往々にして点滴台に相当するものがありません。そんな場合、日本であれば、医師であろうと誰であろうと、手の空いている人が気を利かせて、バッグを高く掲げて点滴台の代わりを果たしてくれるものです。しかし、そこはアメリカ人、誰も気など利かせるつもりは毛頭ありません。この国ではどうもそれが当たり前のようで、この女性救命救急士も別に気にも留めていない様子です。点滴バッグを肩と頬の間ではさむという窮屈な体勢で、患者さんの腕に針を留置して点滴バッグに接続する一連の動作を、文句一つ言わずに行っていました。

この時、私は思ったものです。この光景を見て、手を出したくて(点滴バッグを代わりに持ってあげたて)ウズウズしてしまう自分は、やはり日本の医者なのだな~、と。

実は、ドイツの研究所に赴任早々、私は何度かこれをやらかしています。パソコンやネット回線のちょっとした不具合などで仕事に支障が出た際、つい自分で修復をして仕事を続行したりしたのですが、その都度、上司やIT担当者に怒られていました。

「パソコンやネットの不具合を修復することは、医者の仕事じゃない。君がそれをやることで、IT技術者の仕事を奪っていることに気がづかないのか?ちゃんと担当者を呼ぶ習慣をつけなさい」

当時の私にとっては、これはカルチャーショック以外の何者でもありませんでした。日本の病院は当然の如く効率優先です。故障のたびに技術者を呼べば、その間の仕事はストップし、出張費などの支払いも発生しますし、何よりも「先方の都合にこちらがあわせる」ことがストレスとされました。 そのため、むしろ医局の共用コンピューターや他の医師のパソコンを直することのできる医師は、歓迎されることこそあれ、怒られることなどあり得ませんでした。ただでさえ時間に追われている医師の場合は特に、「もう自分で直しちゃった方が早いわ」…となるのが、自然な成り行きでもありました。

それが、ハワイに来てみれば、口だけ出して絶対に手を出さない医師(または看護師あるいはCP)の登場です。ちなみに、ドイツでもその傾向があるのですが、「(資格ないし立場が)上の者は、下の者の仕事に絶対に手を貸さない」という空気も感じられました。日本の医師の業務には、文書作成から伝票貼りに封筒の宛名書きまで、(医師でなくてもできる)雑務が非常に多いことを考えると、実に対照的と言えるハワイでの一幕でした。

蛇足になりますが、もう一つ、私を仰天させた事があります。それは、先ほどから述べている「口しか出さない」女医(または看護師あるいはECP)の両耳から、長く垂れたド派手なピアスがブラブラとぶらさがっていたことです。「患者と接する医療従事者は原則的に装飾禁止」「衛生的観点からピアスは垂れないものに限り可」などという職場環境で長く働いてきた自分にとって、アメリカの医療現場は衝撃でした。というより、日本だけが世界の中で浮いているのでしょうか?その辺についてはまた次回に続きます。

(2010年2月18日、ホテル前の路上にて撮影。救急車の周囲に野次馬が集まる光景は、世界共通のようです)

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