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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2010/04/16

菅原初代とエフゲニー・プルシェンコ(1)

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)は、2005年に『TVチャンピオン大食い選手権』の後継番組としてスタートし、今年で6年目を迎えました。その丸5年に及ぶ歴史の中で、「当番組が生んだ最強の女性大食い選手は?」と問うならば、誰もが「菅原初代さん」と答えるのではないでしょうか。少なくとも当事者たる大食い選手たちの間では、このことに異論のある者はいないと思われます。先月20日にオンエアされたハワイにおける女王戦も、結果的には菅原さんの圧巻の強さばかりが目についた大会でした。

大食い界最強の女帝・菅原初代さんがハワイロケで快進撃を続けていた2月中旬、バンクーバーオリンピックではフィギュアスケートの男子シングルでエフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア)が話題をさらっていました。2月17日に行われたショートプログラムで、プルシェンコは次々と繰り出す高難易度ジャンプの連続など圧巻の演技で一位通過を果たし、現役世界王者のエバン・ライザチェク(アメリカ)と我らが日本のエース・高橋大輔が僅差で続きました。この様子がハワイのテレビで中継されていた時間帯、当番組ロケ参加者一同はちょうど、宿泊先のホテル内のテラス内にあるバイキング形式のレストランで夕食中でした。敷地内にあるパーのカウンターには大画面液晶テレビが備え付けられ、そこに高橋大輔選手のアップが映し出されたあたりから、私は食事に集中できなくなりました。というのも、以降の画面に次々と登場した男子スケーターと大食い選手を重ね合わせてみると、大食い界の構図を思わぬ形で再発見することができる…という妙な法則に気づいてしまったからです。

その中でも真っ先に浮かんだ第一法則は「菅原初代は大食い界のプルシェンコ」というものでした。大画面テレビに繰り返し流れるプルシェンコの演技を横目に食事しながら、私は両者の共通点と、それぞれの世界における「立ち位置」の類似性に思いを馳せていました。

それでは、両者の共通点は何でしょうか。かたや「大食い界の女帝」、他方は「フィギュアスケート界の皇帝(ツァー)」というような、「周囲から抜きん出た実力」でしょうか。それもあるとは思いますが、それはあくまでも結果論でしかありません。もっと本質的な部分、その強さの質という部分にこそ、両者の類似点はあります。

その質とは、その良し悪しはともかく、両者とも「人類の限界に挑戦している」ということに尽きると思います。エフゲニー・プルシェンコで言うと、彼は昨年の時点ですでに五輪の金メダルと銀メダルを1枚ずつ、世界選手権の金メダルに至っては3枚も所有し、この分野の最高峰を極めたと誰もが認める存在でありながら、今回のバンクーバー五輪に復帰してきました。しかも彼は今、ロシアで現職の国会議員だというから驚きです。全てを手に入れたはずの人物が、全身がボロボロになるようなトレーニングを積む過酷な日々に戻り、政治活動を中座してまでもアマチュアの舞台に復帰してきた目的は、名誉でもなければお金でもなく、「競技の退化に警鐘を鳴らすため」だというのだから、とても凡人には理解できない物語です。

しかし、菅原初代さんを見ていると、プルシェンコの超人的な人生もなんとなく理解できるような気になります。菅原さんもまた、オリンピックではありませんが、当番組のみならず、地元盛岡のわんこそば選手権での3連覇も誇るなど、現在の「競技大食い」(英訳するならcompetitive eating)の世界をリードする存在であることは言うまでもありません。しかし、彼女が当番組に出場するのは、基本的に「誰かに勝つため」でも「自分の名誉」のためでもないはずです。それではお金が目当てかというと、多少なりとも賞金をくれるなら貰いたいと思う側面は否定しませんが、それはあくまでもサイドディッシュに過ぎないように見えます。彼女は「他人に負けたくない」と思う以上に「自分に負けたくない」と思っている部分が大きく、それが「世界中の女性(大食い選手)に負けたくない」「国内男性にだって負けたくない」などと展開し、最終的には「人類の限界に挑戦」しているとしか思えないストイックで誰にも真似できない独自の方法の鍛錬へと突き進む原動力となっていると思われるのです。

そして、そのことを裏付けるのは、前回の当番組出演時に彼女が幾度となく口にした、以下のような発言です。

「私に勝つ人があらわれて欲しい。この人に負けるなら納得できる、と私が心から思えるような人に負けたならば、私は潔く引退できる」

この発言こそまさに、プルシェンコ発言および四回転論争と趣旨の重なる核心部分です。この発言の後ろに「そんな人は現れないと思うけど」というニュアンスがたとえ隠れていたとしても、彼女の心の奥にはあくまでもプルシェンコ同様、「競技の進化」を希求する想いがあるということが、この発言から推察されるからです。そして、その場に居合わせた多くの選手たちは、これを彼女からの強烈なメッセージとして受け取ったはずです。ちょうど、プルシェンコの復帰に刺激されるかのように、今季のオリンピックや世界選手権で果敢に四回転ジャンプに挑戦していった、われらが日本のフィギュアスケーター、高橋大輔さん(関西大学)や小塚崇彦さん(トヨタ・中京大学)のように。

しかし、菅原初代さんが「大食い界のプルシェンコ」と思える理由はまだまだ他にもあります。それについては、次回に続きます。

 

(2010年2月18日、宿泊先ホテルのロビーにて撮影。後ろの景色が明るすぎて菅原さんが逆光になってしまった失敗ショットだが、こちらの方が菅原さんに大ウケだったため掲載。黒い魔女の雰囲気と、背景のトロピカルさとのコントラストが何とも言えない…)

<参考資料>
Wikipedia – エフゲニー・プルシェンコ

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