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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2010/01/29

カジノ天国・マカオに思う(2)

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)が撮影の舞台を海外に移すようになったのは、2007年春のことでした。以降、海外ロケの際には必ず現地のコーディネーターが数名帯同し、番組制作を裏からサポートしています。言葉もわからない異国において、通訳、配車・移送、各種申請業務に至るまで、幅広くアレンジしてくれる彼らがいなければ、ロケ自体が成立しないことは明白です。それだけでなく、現地在住でもある彼らからは、その地のお国事情や生活環境など、貴重なお話をたくさん聞くことができるため、毎回とても勉強になります。ということで今週は、前回の舞台となったマカオで聞いた印象的な話について、取り上げてみたいと思います。

それは、マカオの有名ホテル「グランド・リスボア」前の路上で行われた準決勝の準備時間中のことでした。日没待ちのため空き時間が生じ、私は現地在住の日本人女性コーディネーターと世間話を始めました。彼女は現地で(確かポルトガル人男性と)結婚し、日本人離れしたハーフの顔立ちの息子さんがいらっしゃいます。(以下、「コ」はコーディネーターの略)

コ:「ロケに息子を呼ぼうかしら。サクラをたくさん連れて来てもらいましょう!」
私:「サクラですか…ハハハ?!大学のお友達とか?そう言えば息子さんって、ハーフなんですよね。ということは、学校はインターナショナルスクールですか?」
コ:「地元の中国系学校に行かせても良かったんだけど、父親のこともあるし、一応ポルトガル語系の学校に行かせた。でも、広東語の授業もある。だから息子は、外では広東語、家の中では父とはポルトガル語、私とは日本語を喋ってる」
私:「いわゆる、トリリンガルってやつですね」

そういえばドイツでも、いわゆるインターナショナル・スクールに通っていた人は周囲にいました。しかし、ドイツでは公教育が無料(高校まで)なのに対し、アメリカンスクール等のインターナショナル・スクールは学費が軒並み高額であり、よほどの金持ちでないと、子供を通わせることは困難だと聞いていました。となると、マカオではどうなのかが気になりました。

私:「でも、インターナショナルスクールだと、学費が高いんでしょう?」
コ:「ううん、それがね…無料なのよ、タ・ダ!」
私:「えーっ、(中国系学校だけじゃなくて)外国語系の学校もタダ?」
コ:「といってもね、幼稚園から高等学校までだけどね。それでも、文具とか、教育にかかる経費も無料になるし、大学の学費だって全然安い!教育費がほとんどかからなくて、18歳未満と65歳以上の医療費もタダだから、家計はすごく助かるの。ここは、子育てするには天国よ~!」
私:「うっ…うらやましい…。何でそんなことが可能なんスか?」
コ:「それはね…、ア・レ・の・お・か・げ!」

そう言って彼女が指差す先には、ホテル「グランド・リスボア」のキンキラコテコテのビルがそびえ立っておりました(↓)。

 

(彼女の言う「アレ」とは、この建物です。ホテル「グランド・リスボア」は、日没後には煌びやかにライトアップされ、大食い競技の背景を彩っておりました。2009年8月31日撮影)

2006年についにラスベガス超えを達成したという、世界有数のカジノ産業を擁するマカオでは、そのカジノ収益がマカオ市民の医療・教育・福祉といった福利厚生を支えているのだそうです。沖縄タイムスのサイトによると、「カジノ運営会社が納める売り上げ35%の納税額はマカオの収入全体の約7割を占める模様」とあります。Wikipediaによると、2006年のマカオ全体のカジノ収入が69億5000万アメリカドル(8400億円)とのことなので、このうち国庫に納付分は単純計算すれば24億3250万ドル(2940億円)ということになります。ということは、当時のマカオの人口が52万人(2007年3月)だったので、一人当たり年間約4678ドル(56万5400円)程度ということになります。

このお金の還元方法は、医療費や教育費の無料化に限らないようです。カジノからの増収に連動させるように、年金の引き上げや現金分配(いわゆる一時金や医療券などの支給)なども随時行ってきました。学費や医療費の国庫負担分なども考えあわせると、マカオではこの56万円余りは、多少の中抜き(?)があったとしても、市民の目に見え、市民が確実に実感できる形で、還元されていると言えるでしょう。そこが、国庫に収まったお金の使途が全く闇に包まれ、一部の特定勢力にしか還元されない日本との、大きな違いなのかもしれません。

日本では最近、政治とカネの問題がニュースを賑わせているようですが、そんな報道に接するたびに思い出すのは、マカオでのコーディネーターの満ち足りた笑顔です。「カジノで負けた人には悪いけれども、私たちはその人たちに心から感謝しながら生活している」とまで言った彼女を見れば、『元祖!大食い王決定戦』の司会者・中村有志さんも、遊びがいがあったと納得してくれるのではないでしょうか。もっとも、中村さんは初日の負けを残りの数日で9割方取り返したそうなので、割を食ったマカオの子供たちが相当数いるのかもしれませんね。

 

(準決勝撮影前の準備風景。前出の「グランド・リスボア」は左端に切れている建物で、日没後のライトアップの様子がうかがえる)

<参考資料>
沖縄タイムス①:沖縄カジノタイムス 「マカオカジノシリーズ」

Wikipedia - マカオ

サーチナ2009/12/16 - 中国返還10周年 数字から見るマカオの発展(2)