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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/11/06

大食い番組の危機管理(1)…勝利は血の味?

『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)の司会者で俳優の中村有志さんは、ロケの度に周囲にこのようなエピソードを披露しています。

「あの大食いってのは、本当に食べてるの?(映像の)編集とかで、さも食べているように見せているってことはないの?…って、今までに何度聞かれたことか!その度に、ホントに食べてるんですよーッ!って説明するんだけど、全然信じてもらえないんだよ!」

確かに、45分という制限時間がなくても、食べ物を7キロも8キロも胃に収めることができる人など、周囲を見渡してもなかなかいません。映像の編集のトリックか何かでそう見せているのではないか…などと、疑いの眼差しを向けるのも、理解できようというものです。

そんな人には是非、大食い選手の競技直後の口の中を見ていただきたいところです。口の中を見れば、そんな疑いは一気に吹き飛ぶことでしょう。当番組では、試合終了後に医師が簡単な診察を行うのが慣例ですが、その際に彼らの口の中を見るたびに、この競技の過酷さに気づかされます。

最も多いのが、頬の内側の粘膜を噛んでしまうことによる口内炎です。選手が大会前に個人的な”猛特訓”をこなしてから出場する当番組では、このタイプの口内炎はロケ入り前の時点で既に多く認められます。また、ひとたび腫れた箇所は、その腫れゆえにさらに噛みやすくなるという悪循環に陥りやすく、また、競技中は時間との競争が激しく、患部への注意がそがれてしまうため、ロケ中の回復が見込みにくいのも厄介です。しかも、これらは食材を選ばず、いつでもどんな食材で起こりうるということも重要です。

次に多いのが、出血です。粘膜レベルにとどまる出血(粘膜下出血)であれば問題は少ないのですが、粘膜が切れてしまうケース(口腔内裂傷)や、粘膜が剥がれてしまうケース(粘膜剥離)も実は少なくありません。その場合、選手からは「センセー、血の味がします(涙)!」「しみるぅ~!」などという、悲鳴に似た訴えが上がってきます。

ただ、この手の「流血の惨事」を起こす食材は、だいたい決まっています。その多くは、コロモの付いた揚げ物です。揚げたての時はサクサクしていて美味しいコロモも、時が経つと冷めて硬くなり、大食いの敵となります。2008年春の2回戦「鳥のから揚げ」、2008年秋の2回戦「穴子の天ぷら」、最近の大会では2009年秋の東京予選での「エビ揚げ餃子」、同本選大会2回戦での「舞茸の天ぷら」も、硬くなったコロモを急いで飲み込む競技となってしまい、幾人かの選手にとっては「血の味」を伴うものでした。また、揚げ物ではありませんが、以前のコラムで取り上げた2008年春の初戦「デニッシュ」もまた、古川淳美さんに文字通りの「甘さとしょっぱさ」を同時に口にもたらした食材でした。(→驚異の新人快進撃!本選編~元祖!大食い王決定戦in Hawaii (5)

こうして見ると、裂傷を起こしやすい食材は2回戦に多い、という法則が何となくありそうです。このあたりに、スタッフの選手に対する深い配慮がうかがえます。そして、大食い番組制作では日本をリードしてきたと言える「テレビ東京」および「ゼロクリエイト」ならではの、エンターテインメント番組の危機管理技術を見出すことができます。

当番組の本選6試合のうち、1~3回戦の3試合は海外行きの権利をかけた国内戦です。ロケ初日に1回戦と2回戦を行い、翌日は3回戦を終えたらその日のうちに出国、という、相当にタイトな2日間でもあります。ただでさえ、「海外に行けるかも!」というニンジンが目の前にぶら下った試合では、選手のテンパリ具合が半端ではありません。この状況で、口の中を切るような食材が1回戦で登場してしまうと、同日中の2回戦は「生傷に塩を塗りこむ」ような苦行となるでしょうし、この手の食材は歯のトラブルの原因にもなります。しかし、それが2回戦だった場合、間に一泊挟むことで、回復や治療のための時間が稼げます。さらに翌日の3回戦は、「フライト」という絶対に動かせないスケジュールが後ろに控えており、急病などのトラブルは絶対に避けたいところです。だからこそ3回戦では、トラブルの少ないことが(過去のロケ経験上)判明している食材が選ばれるのであり、裂傷の原因となるような”ハードな”食材は敬遠されるのです。

もっとも、ここまで読んだ皆さまであれば、「そこまでして硬い食材を使う必要はあるのか?安全性の高い食材だけ使っていればいいじゃないか!」と思われることでしょう。しかし、ことに大食いに関しては、「安全性の高い食材の方が危険」なのです。これについては、来週に続きます。

 

(国内ロケではないが、口の中を切りやすい食材の一例として、ハワイで登場した「ココナッツエビフライ」の写真を供覧。2008年3月2日、1位となった菅原初代さんのノドを45分間のうちに通過したのは、実に36皿108匹のエビたち。卓上に並ぶいわゆる「完食カット」(→大食い珍道中(3)~業界用語編(後))の撮影用に用意されたエビは、撮影終了後、右横に少々写っている人々の胃袋にキレイに収まった)

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