アンジェラ・ギャラリー(4)…「就活」と「アルペン」
先月放送の『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)にて、圧倒的強さで初の王者に輝いたアンジェラ佐藤こと佐藤綾里さんですが、当初は「アンジェラ」ではなく、別の名前が用意されていたという話(→アンジェラ・ギャラリー(1)…二人のアンジェラ)について、振り返ってみたいと思います。
『TVチャンピオン・大食い選手権』(1992年~2002年)の頃から日本の大食い番組制作をリードしてきたテレビ東京および制作会社ゼロクリエイトのスタッフは、年2回の本選の間の長い日程をかけて、全国各地で新人の発掘を行っております。リサーチ会社やチャレンジメニュー店などの情報をもとに、有望そうな新人に声をかけて予選に参加してもらうケースもあれば、番組告知を通して参加者を募るケースもあります。
さて、秋の本選の覇者となった佐藤綾里さんの場合、当番組初登場は2009年春、晴海ふ頭で行われた東京予選でした。このときの司会は本選恒例の中村有志さんではなく、アンジャッシュ渡部さんでした。当番組にみる渡部さんは、ソフトでニュートラルな語り口の中に軽妙なウィットを織り交ぜた司会進行が特徴で、「NHKのど自慢」を見ているような磐石の安定感が最大の持ち味であります。
この東京予選の撮影時、佐藤さんはちょうど就職活動中でした。ということで、司会の渡部さんも「就職活動中の大食いさん」というスタンスを軸に、持ち前の滑らかな実況を存分に披露していました。この時点では、佐藤綾里さんに「就活佐藤」というあだ名が付きそうな雰囲気が、現場にありありと漂っていました。というのも、その前月に行われた新人戦の覇者・渡辺こずえさんに「婚活」なる呼称がついており、「婚活」「就活」という、時代を描写するキーワードの揃い踏みが予想されたからです。
しかし、ロケが終わり、アンジャッシュ渡部さんが試合後速やかに移動してしまうと、「就活」という単語もまた、どこかへ消えてしまいました。当番組では予選終了後、制作会社スタッフやプロデューサーが予選通過者の周りをグルリと取り囲んでインタビューするのが恒例で、それこそ面接官による採用試験のような「就活」さながらの光景なのですが、この言葉では結局佐藤さんのイメージは膨らまなかったようです。それでも、番組出場歴皆無の無名新人の一位通過は異例の事態なので、限られた時間で人物像を最大限把握しようと、スタッフはいつも以上に必死でした。
「兄弟姉妹の構成は?」
「いつから大食いになったか?」
「学校での部活動は?」
「スポーツ歴はあるか?」
当番組の女王戦に2連覇中の菅原初代さんの持論に、「大食いは下の子に多い」というのがあります。一番最初に生まれた子(いわゆる長子:一人っ子を含む)である「上の子」よりも、後から弟や妹として生まれた「下の子」の方が、強い大食い選手を輩出しやすいという、興味深い説です。「上の子」に対して背伸びして張り合う「下の子」は、幼少時から熾烈な競争原理にさらされる場合が多く、その負けん気が大食い競争の原点となるのではないか…とのことです。そして、佐藤綾里さんにはお姉さんが一人いらっしゃるので、一応「下の子」ということになります。
しかし、世の中には「下の子」がたくさんいますが、みんなが大食いとは必ずしも限りません。また、大食い界全体で見ると、西川廣幸ドクター・山本卓弥・ギャル曽根を筆頭に、確かにかなりの大食い選手が「下の子」に該当しており、佐藤さんだけの話ではなくなってしまいます。
結局、「就活佐藤」では埒があかず、「上の子・下の子論争」でも出口が見えず、佐藤綾里さんのニックネームは完璧に暗礁に乗り上げました。そこで、3番目以降の質問「学校の部活動」「スポーツ歴」となるわけです。ここで初めて、彼女には過去にアルペンスキーの競技歴があることが判明します。そう言われて見れば確かに彼女、長身であるのみならず筋骨格がガッチリしており、元・競技スキー選手というのも納得できます。上背のみならず肩幅もあるというフィジカル面での優位性は、大食い競技にも有利に働く…という、まさに以前のコラムに述べた通りの超大型有望新人でありました。(→徹底検証?!大食いの資質(2)…胃ヂカラ・体格編(座高)、→徹底検証?!大食いの資質(3)…胃ヂカラ・体格編(肩幅))
そして、東京予選から18日後、いよいよ本選ロケ開始の日を迎え、私はスタッフから渡された台本を興味津々でめくりました。毎回、選手のニックネームは台本の最初の方のページに、顔写真つきで印刷されてスタッフに配布されます。そして、彼女の顔写真の下にプリントされた文字はたった四文字でした。
「アルペン」
えっ、アルペン?と、正直なところ思いました。ただ、正司優子さんの「トライアスロン正司」がすんなり定着したこともあり、「アルペン佐藤」もまた、スキーないし雪国・北海道に関連するネタに絡めば定着する可能性はありました。もっとも、このニックネーム、相当に無理があるということを、私などよりもよっぽど、スタッフの方が百も承知だったようです。台本に目を通したはずの司会者が、頭に入っているはずの「アルペン」という単語をなかなか口にしないのです。そうこうしているうちに、「アンジェラ」の方向で事態が急速に収束に向かったという次第は、以前述べた通りです。
ニックネームがなかなか決まらなかったという経緯は、裏を返せば、彼女の人柄の奥深さやキャラクター(芸風?)の幅広さを暗示する逸話だったのかもしれません。
(2009年8月28日、「元祖!大食い王決定戦」本選ロケ・1回戦の会場である群馬県嬬恋村のキャベツ畑にて。地元青年が扮するキャベレンジャーと、当番組が誇る大食いレンジャー「ダブル佐藤」。「ピンク」ロシアン佐藤(左)と「レッド」アンジェラ佐藤(右)で、ついにゼロクリエイトも戦隊モノの制作開始か?!)






