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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/06/19

「ワキバラにカイロ」の医学的根拠

前回のコラムでは、長年の野球観戦経験および4年余りの大食いロケ帯同経験から、「使い捨てカイロは脇腹と太腿前面に貼るのがオススメ」という自説(珍説?)を提唱してみました(→使い捨てカイロと三点クーリング…野球観戦時はここに貼れ!)。それは元々、医療・介護の現場で知られる「三点クーリング」を逆転した発想でありました。そして、その貼り付け場所を具体的に説明するために引用した「gooヘルスケア」の中に、私の珍説を別の面から補強する重要なポイントがさりげなく描かれていることに気づいた…というところまでお話ししました。

この「gooヘルスケア 人体図 内臓前面」という図は、人間の胴体(体幹)の中にひしめくように分布する内臓(胸腔内臓と腹腔内臓)をわかりやすく見せるために、胸壁と腹壁を大胆にゴッソリと切り取ったあとの人体を模式的に描いています。この中には、肺や心臓、肝臓や胃腸などといった、人体にとって欠くべからざる重要な器官が含まれます。

しかし、ここで着目していただきたいのは、実はその重要器官の方ではなく、胸壁・腹壁を切り取った断面の方です。

皮膚の切れ目の下に広がるフワフワと一層に裏うちされた黄色い組織は、「皮下脂肪」です。では、その下にパイシートのように複数の層をなす橙赤色の組織は?「筋肉」ですね。その筋肉に折り重なるような数々の白いスジ状の「筋膜」「腱」「胸膜」「腹膜」や、肋骨の断面などが、実際と比べれば大変簡略化されてはいますが、一応それらしく描かれています。

私イチ押しのカイロ貼り付け部位としての「脇腹」は、「肋骨のあるレベルで、肝臓の高さをカバーする感じ」と、前回のコラムで書きました。この高さを、先述のgooの図で確認してみてみると、ちょうど皮膚の下の黄色い層、つまり皮下脂肪が最も薄い部分にピッタリ一致しています。「胴体の熱が最も逃げやすいのは脇腹」というのは、「腋下に近いから」という以上に、皮下脂肪の薄さに起因するという考え方もできます。

では、この図に描かれているように、人間の胴体は本当に「脇腹レベルで最も皮下脂肪が薄い
」のでしょうか。これは、医師としての臨床経験に照らし合わせれば、正しいと考えます。右下腹部を数センチ切開する虫垂炎の手術は、厚い脂肪の下を相当深く操作しているように見えます。しかし、同じ腹壁でも、もっとおヘソに近いレベルになると、さらに脂肪の量が多くなります。脳神経外科領域には、脳室腹腔シャント(V-Pシャント)という、脳外科医がハラを開ける手術(!)がありますが、これははっきり言って脂肪との仁義なき戦いです。切っても切っても湧いてくる脂肪、そしてやっとたどり着いた先には分厚い筋肉(腹直筋)…。一見かなり痩せているように見える人でも、意外とこの辺には脂肪が多く、あっという間に手術器具は脂にまみれてテカテカです。V-Pシャントのたびに、「あぁ、腹腔内までが遠い…」とため息をつきながら、脳外科医はアブラ汗を流すのです。

ちなみに、首や腰のヘルニアや脊髄腫瘍の手術などもまた、脳神経外科の領域に属します。この手術もまた、部位や切開デザインによって差はあるものの、やはり「湧いてくる脂肪と出血しやすい筋肉との格闘」という側面はあります。そもそも、「脂肪のかたまり」などと言われて手術対象となる皮下の脂肪腫(lipoma)において、その好発部位が肩甲、背部、頚部とされていることからも、人間の背中側には結構脂肪があると考えて良さそうです。

それに対して、脇腹(側胸部)はどうでしょうか。外科系医師ならば一度は「胸腔穿刺」ないし「胸腔ドレナージ」という処置をしたことがあるのではないかと思います。これは、交通事故・肝硬変・癌性胸膜炎・自然気胸などにより、肺の外側かつ胸腔の内側のスペースに血や水や空気などが溜まった場合、これらを排出するための処置です。腋の下から足の方向へ進んだ先のやや背中側に切開を加え、肋骨と肋骨の間から針やチューブを入れるのですが、このあたりは確かに脂肪層のみならず筋肉の層も薄く、スムーズかつ速やかにチューブを入れることができます。この穿刺部位こそ、まさに私が考えるカイロ貼りつけ推奨部位に該当します。

ちなみに、当番組プロデューサー推奨の「肩口」「襟のすぐ下」とは、鎖骨付近であり、この部分も確かに皮下脂肪が薄くて骨がむき出しに近い箇所ではあります(「gooヘルスケア 人体図 筋肉名称」)。そういう意味では、この部位にカイロを貼ることには確かに根拠がありそうです。ただ、その上下にはかなり筋肉が発達しており、胸まで下りればさらに乳腺組織も加わります。そういう意味では、先述の「ワキバラ」のほうが、熱の逃げる面積が広いと考えられ、カイロを貼る優先順位は上ではないかと考える次第です。

基本的には、体幹の皮下脂肪の付き方には個人差もあるはずです。私の場合はワキバラにカイロが最も有効でしたし、先日ロケを終了した「元祖!大食い王決定戦 2009年夏の新人戦」(TV東京)においても、この「ワキバラにカイロ」は、出場選手から高い評価を頂くことができました(これについてはいずれまた、オンエア後に別稿を用意します)。が、皆様におかれましては、御自身の体を姿見ないし手探りでチェックしていただき、最も脂肪が薄いと思われる部位に優先的にカイロを貼るのがよろしいかと存じます。