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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2009/06/12

使い捨てカイロと3点クーリング・・・野球観戦時はここに貼れ!

先週は「使い捨てカイロはどこに貼るか?」について取り上げました。「元祖!大食い王決定戦」(TV東京)ロケの場合、競技中の大食い選手は、食材の温度が胃内の温度ひいては体温に反映されやすく、食材と考え合わせる必要があるのに対し、大食いをしないスタッフの場合はその限りでないことを述べました。

ただ、毎度ながら寒い中で行われる大食いロケにも、たまに事件が勃発します。カイロを買い忘れてしまう、あるいは、選手使用のカイロの必要量を少なく見積 もってしまい、スタッフにカイロが充分まわらないケースです。例えば、厳寒のロケにて、カイロが1人当たり2個しか支給されないとしたら、あなたならその カイロをどことどこに貼りますか?それが4個だった場合ならどうでしょう?この、当事者から見れば「生命にかかわる(?!)」究極の難題ですが、実は過去の本選ロケに必ず1回は起きていました。近くのコンビニに駆け込んでも、カイロが僅かしか残っていない場合、スタッフがそれを全部買い占めて帰ってきたと しても、当然ながらスタッフよりも選手に優先的に配られるため、気がついたらスタッフの取り分が絶対的に不足してしまうのです。

現場医師である私の場合、「競技進行中は (薄い生地の)白衣を着ていないといけない」という服装の制約という、私独自の事情も加わるのがツライところです。毛皮製の白衣とかが世にあれば、このロケはどんなに楽でしょう。といっても、いつドクターストップの出番があるかもわかりませんし、周囲は寒さなんぞモノともせず目がギラギラの「必殺仕事人」 みたいな人ばかりなので、ヘナチョコ医者が「寒いから白衣の上にコート着ててもいいですかぁ~?」などと言うワケにはいかないのです。

そこで、数限りあるカイロの有効活用に役に立ったのが、特に寒さの厳しいことで知られる春のセンバツこと、「選抜高等学校野球大会」の長年の観戦で培われた経験でした。

春の選抜大会が開催される3月下旬の日本はかなり寒いことが多く、しかも、甲子園球場はスタンド上段にいくほど風が強く、まさに骨の髄まで、体の芯まで冷 えます。あまりに寒い日の野球観戦の前には、甲子園駅前で買い込んだカイロを仕込んで臨むことになります。そして、初めのうち私はそのカイロを、先週のコラム(大食いロケの必需品・・・使い捨てカイロはどこに貼る?)にもあるように、多くの人が推奨する「おなか」「腰」などに貼っておりました。しかし、それでも寒さが和らいだ実感が今ひとつだったため、医学的に考え直すことにしたのでした。

真っ先に頭に浮かんだのは、「3点クーリング」でした。3点クーリングとは、「頭
ないし首」「わきの下《腋下-えきか》」「ももの付け根鼠径そけい》」の3箇所に氷枕などをあてて冷やす方法のことです。これらは、太い動脈や静脈が皮膚面に近い、つまり走行が浅いとされる3大部位でもあります。 発熱時の体温を最も効率的に下げる方法として、小児患者から高齢者まで、全国の医療機関で広く採用されている方法です。

これを逆に考えるなら、体温をすみやかに上げる方法は「3点ウォーミング」・・・通常ならそう考えます。ただし、ここで注意するべき点が2つあります。

1つ目は、3点クーリングの1つ目の部位である「頭」は、その主たる中身が「脳」であることから、寒さに強く暑さに弱いということです。昔から「頭寒足熱」というように、脳細胞は熱による変性を受けやすく、逆に、ダメージは冷却により小さくできるということが医学的に知られ、医療の現場でもこれを応用した治療法が導入されています(例:脳損傷の強い患者さんに採用される「脳低温療法」が有名)。このため、寒さ対策としては、頭部にはカイロを貼る必要はありません。となると、「3点ウォーミング」は「2点ウォーミング」に減らせそうです。
(備考:肩こり・神経痛対策として局所的に後頚部を温めるケースは有効なことがあります。ただし、解剖学的知識がないと危険を伴いますので、必ず医師等の専門家の指導のもとに行ってください)

2つ目は、気温の低い中に長時間いることによる寒さは、必ずしも体温の低下を意味しないということです。人間は恒温動物であり、自らのホルモン分泌や新陳 代謝を駆使して体温の一定化をはかるものです。つまり、甲子園球場に座る観客の体温が34度になっているわけではないのです。寒さとは、体温の低下というよりも、体のあちこちの表面温のバラツキにより自覚されるものです。従って、本来は衣類の量で調節するべきなのですが、補助的にカイロ等の発熱体を使用することで、体温維持にかかる体の負担を軽減するということに、その意味があります。その際、主要血管が皮膚面に近い部位が「腋下」と「鼠径」であるという ことは重要です。同じカイロを貼るなら、防寒の効率が高い部位を優先的にケアしたいものです。

以上から、私が野球観戦時に貼ってみて最も成功した部位が、実は「脇腹」と「太もも」の2箇所でした。「脇腹」は肋骨のあるレベルで、肝臓の高さをカバーする感じで貼ります。「太もも」は前面上方の大腿四頭筋レベル、腿の付け根のやや下を暖めるのが有効でした(この方法だと、スカートを着ていても防寒効果 抜群です)。解剖学的位置関係については、下記のサイトを参照してください。
(『gooヘルスケア・人体図 内臓前面
(『gooヘルスケア・人体図 筋肉名称』

この「gooヘルスケア・人体図 内臓前面」は、なかなか示唆的です。この絵には、脇腹にカイロを貼るのが何故有効なのか、ちゃんと図の中に答えが描かれ ています。この絵から、「カイロをどこに貼るべきか」という命題を説明する、別の仮説も頭に浮かんできました。それについては、来週あらためて述べたいと 思います。